THCゼロ基準についての整理

2022.06.11 | 国内動向 大麻・CBDの科学 安全性 | by greenzonejapan
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THCゼロ基準についての整理
2022.06.11 | 国内動向 大麻・CBDの科学 安全性 | by greenzonejapan

昨今検討されている大麻取締法改正において、重要な論点の一つがTHCゼロ基準の策定です。

現行の大麻取締法では、どのような品種であれ大麻である限り、法規制の対象となっています。また部位規制と呼ばれる独自ルールにより、茎や種子は“大麻ではない“とされ、これらから製造された製品もTHCが検出されない限り合法とされています。そして非検出の基準となる検出限界値(ゼロ基準)は開示されていません。
大まかに言うと、この部位規制ルールを撤廃し、THC含有量の少ない品種は“ヘンプ“として大麻から分離し、精神作用を生じない微量のTHCの許容限界を明示するというのが、今日の国際基準に沿った法改正の方針となります。

この“ゼロ基準“は細かくみると、二種類の基準作りが必要なことがわかります。
一つ目が植物としてのヘンプ品種の定義です。大麻草の品種は大麻ポータルサイト最大手のLeaflyに登録されているだけでも6000種類以上あり、今日も改良により新しい品種が誕生しています。主にTHCを目的として育てられるものから、繊維採取のために栽培されるものまで、用途ごとに様々な品種が使い分けられているのです。日本で繊維用に育てられている“とちぎしろ“が良い例ですが、このような品種にはTHCはほとんど含まれておらず、嗜好品としての使用には適しません。
産業的な可能性を追求するため、今日ではTHCをほとんど含まない大麻品種をヘンプと呼称し、大麻とは別の植物としてカテゴリーするのが国際的な潮流となっています。では大麻とヘンプの境界線をどこに引くのかについては、国毎にそれぞれのルールが定めされています。
欧州では乾燥重量でTHC0.2%以下の品種をヘンプとするのが一般的となっており、米国では0.3%が採用されています。またスイスやエクアドルなどの先進地域では1.0%以下の大麻品種はヘンプとするというルールが採用されています。欧米でもこの基準値を1.0%まで引き上げようという提案はなされており、将来的には1.0%あたりに国際基準が制定されるのではないかと思われます。
日本でも法改正によりヘンプ品種を定義し、ヘンプに関しては現在の監視カメラ、夜間巡回などの厳しい栽培管理体制を撤廃し、自由に栽培できるようにするのが望ましいと考えられます。

この“植物としてのゼロ基準“が基本となるのは間違いないのですが、これだけでは十分では無いのです。
海外から輸入されるカンナビノイド製品に含有されるTHCの許容量は、輸入許可を行う麻薬取締部の内部規定では定められているようですが、現時点では開示されていません。
またヘンプを定義し、栽培を許容すると、極めて微量ではありますがTHCの生産が可能となります。これを濃縮すると高THCの製品が理論上、作れてしまうのです。これは取締当局としては望ましい状況ではありません。

このような脱法製品を規制するために必要となるのが、最終製品のゼロ基準ということになります。
最終製品ゼロ基準も国毎にそれぞれですが、概ね先述のヘンプ基準値に準拠しているようです。
(ヘンプ品種を濃縮せずに、そのまま製品にすれば製品ゼロ基準を満たすように制度設計するのが合理的だからでしょう。)

こちらの製品ゼロ基準に関しては、科学的妥当性からも提言がなされています。
ヨーロッパ産業用大麻協会(EIHA)のBeitzkeらが2021年に執筆した論文では、摂取しても影響のないTHCの基準値は3.5μg/kg~14μg/kgと考えられると報告されています。これは成人の場合、一食あたり0.25mg~1.0mgということになります。
根拠としては、精神作用が感じられる最少のTHC用量が5mg/day(一回あたり2.5mg)であることが明らかになっているため、その10倍の安全域をとって0.5mg/dayを安全量の基準にしましょう、という提案のようです。(2021年には米国国立薬物乱用研究所も、THCの1単位を5mgと定義しています。)CBD製品に含有されるTHCは、これ以下なら精神作用を及ぼさないため、社会的な影響はないと考えられます。

現時点で、日本がゼロ基準としてどのような値を採用するかについては、具体的な数字は提示されていません。そのあたりを議論するのが先日発足された“大麻規制検討小委員会“の役割なのかもしれません。これに関しては欧米諸国と足並みを揃えておくのが産業的には有意義な判断と言えるでしょう。どのような値を採用するにせよ、今後、国際的な基準値は変動することが見込まれます。具体的な数字は法律よりは省令や閣議決定による政令で定めて、柔軟に対応できるようにしておくのが望ましいでしょう。

執筆:正高佑志(医師・一般社団法人Green Zone Japan代表理事)

“THCゼロ基準についての整理” への2件のフィードバック

  1. E より:

    Legalize! Tax! Regulate medical marijuana in Japan! arigato

  2. 高杉カンナレラ より:

    大麻は天照大神の御神体。其れが取締法により天の岩戸に監禁され続けてる。八百万の神々はこの天の岩戸開きこそが仕事なのに、我々全員が自身の手で掴み取る自由。Libertyこそ今必要なのです。

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