イギリスにおける医療大麻使用の実際について

2022.07.13 | 大麻・CBDの科学 海外動向 | by greenzonejapan
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イギリスにおける医療大麻使用の実際について
2022.07.13 | 大麻・CBDの科学 海外動向 | by greenzonejapan

“医療大麻“という言葉が示す内容は多岐に渡り、その用途は国や地域毎に傾向の違いが認められます。過去にアメリカとドイツの医療大麻使用の実情について比較する記事を掲載しましたが、今回はイギリスの例を文献報告を参考に考察したいと思います。

○イギリスの医療大麻事情

イギリスでは2018年、ビリー・カルドウェルという名前の難治てんかん(ドラべ症候群)患者の抗議行動をきっかけに、医療大麻が合法化され、さらに一部の適応疾患に対しては国民皆保険サービス(NHS)の中で使用可能となりました。しかし実際のアクセスには壁が立ちはだかっているようです。
イギリスの保険診療では、国立医療技術評価機構(NICE)と呼ばれる団体が策定する診療ガイドラインが大きな影響力を持っていますが、このガイドラインはエビデンスやコスト・パフォーマンスに厳格であることが医療者の間では知られています。現時点での適応疾患は標準治療で対応困難な難治てんかん、痙性、難治性の嘔気、嘔吐などに限られています。
一方でNHSの枠外である民間保険診療ではこの適応制限は緩やかになり、現在ロンドンには医療大麻専門のクリニックが存在しています。

○民間団体が運営する英国医療大麻登録制度(患者レジストリ)

医療大麻の可能性を検証し適応を拡大することを目的として、英国では前向きの患者登録調査が行われています。“英国医療大麻登録制度“は、医療大麻専門クリニックであるサフィア・メディカル・クリニックの医師達によって運営されている患者データベースで、2019年の12月に登録が開始されました。患者は大麻使用開始前のベースライン、開始一ヶ月、三ヶ月、六ヶ月、その後六ヶ月毎に前向きの追跡調査を受けます。このデータベースを元にした学術研究の成果として、本記事の執筆時点で6本の学術論文が世に送り出されています。

2021年5月、上記に患者登録した129名を対象とした前向き調査の結果が初めて報告されました。
患者の平均年齢は46歳で、最も多い用途は原因不明の慢性痛(37%)で、神経痛、不安、線維筋痛症、エーラス・ダンロス症候群、PTSDと続きました。カンナビノイドの使用量の平均はCBD:20 mg/day、THC:3.9 mg/dayでした。副作用は使用者の24%で報告されました。大麻の有効性は①生活の質のスコア(EQ-5D-5L:高いほどQOLが良好)、②不安のスコア(GAD-7:21点満点で高いほど重症)③睡眠のスコア(SQS:10点満点で高いほど睡眠の質が良い)の三種類のスコアで評価されました。その結果、生活の質、不安、不眠のスコア全てにおいて使用開始から1ヶ月時点で有意な改善を認めていました。

2021年9月にはこの患者データベースに登録した者のうち、慢性疼痛に対してAdven社の製品を使用する110名を対象としたデータ解析が行われ、痛み、睡眠、不安、生活の質の改善が得られたことが示されました。

2021年1月には緩和ケア目的で使用している16名を対象としたサブ解析が行われました。うち15名ががん患者であり、平均的な使用量はCBD:32mg/day、THC:1.3mg/dayでした。残念ながらこの解析では症状の有意な改善は確認されませんでした。(統計的な有意差を出すには症例数が少なかった可能性が考えられます)

また2022年にはこのデータベースのうち不安障害を対象に医療大麻を使用していた64名の解析が行われ、不安、睡眠、生活の質の有意な改善が認められました。

この患者データベースから英国では慢性の痛みや不安などの精神疾患、がん患者さんの症状緩和を目的として医療大麻が使用されていることがわかります。また注目すべきは用量が少ないことです。我々が診療業務提携を行なっているシアトルの統合医療クリニック、AIMS Instituteのアドバイスではしばしば、がん患者さんなどを対象に1000mg/dayを超える高用量の推奨がありますが、この患者レジストリに参加している層においては、そのようなDosingは一般的には行われていないようです。

どれくらいの量を摂取すべきかという問いはカンナビノイド医療における最大の課題の一つであり、現時点では正解はありません。様々な診療家の実践とデータの蓄積によって、ある種の正解が導かれることが期待されます。

 

執筆:正高佑志(医師・一般社団法人Green Zone Japan代表理事)

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