日本のてんかん患者にもCBDが有効であることを学術報告しました

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日本のてんかん患者にもCBDが有効であることを学術報告しました

2022年12月に発行された”Neurology Asia”という学術雑誌に、我々が執筆した論文”カンナビジオール(CBD)サプリメントは日本人のてんかん発作を抑制:難治てんかん患者を対象とした横断調査”が掲載されました。これはGreen Zone Japanと聖マリアンナ医科大学てんかんセンターの共同研究チームによる学術報告の二報目となります。

○本研究の経緯について

Green Zone Japanが情報発信を始めて1年近くが経過した2018年6月、生後半年の難治てんかん患者であるAちゃんのご両親からの問合せが寄せられました。その他の治療では発作の抑制が困難であったAちゃんに、CBDオイルを服用させたところAちゃんの発作がほぼ完全に消失したことが全ての始まりとなりました。
我々はAちゃんのケースを聖マリアンナ医科大学の山本仁先生、太組一朗先生に報告し、そこから公明党の秋野公造議員に話が伝わったことで、国内での治験開始の端緒となりました。また2020年6月には本症例について学術報告を行いました。
それらのロビー活動・学術活動と並行して2019年1月に我々が立ち上げたのがCBDチャリティーバンク”みどりのわ”です。(今日ではこの活動はカンナビノイド医療患者会(PCAT)に引き継がれています)これはAちゃんと同じく難治てんかんの患者さんにCBDをなるべく安価に届けること、そして日本におけるカンナビノイド医療の進歩のために、データを収集し学術的に報告することを目的として運営されています。
このチャリティープログラムに参加する患者・家族が一定数を超えた2021年6月、我々はみどりのわの参加者を対象としたオンラインアンケート調査を実施しました。今回の学術論文はその際のデータを元に執筆されています。

○研究結果の概略

回答者の背景:
本調査ではCBDを内服する28名の難治てんかん患者・家族から回答を頂きました。
患者の性別は男性18名(64.3%)、女性10名(35.7%)でした。年齢は0歳から28歳に分布し、中央値は4.5歳でした。患者の日常生活動作に関しては、“年齢相応に自立している”と回答したのは1名(3.6%)のみで、“ある程度の介助を必要とする”のが11名(39.3%)、“完全な介助を必要とする”のが16名(57.1%)でした。診断名としては最も多かったのはWest症候群の7名(25.0%)であり、次いで新生児仮死・低酸素脳症に伴うてんかんが4名(14.3%)、Lennox-Gastaut症候群が3名(10.7%)、発症からの年数の平均値は4.0年でした。CBDサプリメント摂取開始前のてんかん発作頻度については、1回/日以下と回答したのが7名(25%)、2〜5回/日と回答したのが6名(21.4%)、6~10回/日が5名(17.9%)、11回以上/日が10名(35.7%)でした。患者がこれまでに使用経験のある抗てんかん薬の種類は平均4.7剤であり、CBD服用開始時に併用していた抗てんかん薬の数は平均で2.7剤でした。

CBD使用の詳細:
回答時点でCBDの摂取を継続していたのは21名(継続率:75.0%)でした。摂取継続者(21名)の継続期間は3ヶ月以内が7名、3〜6ヶ月が4名、6〜12ヶ月が8名、それ以上が2名でした。回答時の1日あたり摂取量は0.6 mg/kg/dayから26.9 mg/kg/dayの間に分布し、中央値は12.0 mg/kg/dayであった。CBD摂取を中断した理由は、“効果が乏しかった”が5名、“経済的に継続困難であった”が1名、“その他”が1名でした。副作用を理由に中断した例は認められませんでした。

安全性に関して:
”CBDの副作用を疑うような症状がありましたか?”との質問に対し、“あり”と回答したのが9名(32.1%)、“なし”と回答したのが19名(67.9%)でした。副作用と認識された症状は、“眠気・活動性の低下”が4名(14.3%)、“下痢”が2名(7.1%)、“その他”が3名(10.7%)でした。これらの諸症状の重症度については、“中止・減量を必要としなかった”と回答したのが6名、“減量を必要としたが速やかに改善した”と回答したのが3名でした。

CBD開始後の発作、抗てんかん薬の増減について:
“CBDの摂取により、発作頻度にどのような変化がありましたか?”という質問に対しては、“完全に消失した”と回答したのが2名(7.1%)、“とても改善した”と回答したのが2名(7.1%)、“ある程度改善した”と回答したのが11名(39.3%)、“変化がなかった”と回答したのが7名(25.0%)、“わからない”が6名(21.4%)でした。

また“CBD摂取開始後からその他の抗てんかん薬の量や種類に増減がありましたか?”との質問に対しては、8名(28.6%)が”減らすことができた”と回答しました。その他の20名(71.4%)は”変わりなし”と回答しています。

睡眠、活気、QOLなどの副次要素について:
“CBD摂取に伴い夜間の睡眠へはどのような影響がありましたか?”との質問には、“とても改善した”と回答したのが4名(14.3%)、“ある程度改善した”と回答したのが4名(14.3%)、“変化がなかった”と回答したのが14名(50%)、“わからない”が6名(21.4%)でした。“CBDの摂取により日中の活動性や活気にはどのような影響がありましたか?”という質問に対しては、“とても改善した”と回答したのが3名(10.7%)“ある程度改善した”と回答したのが8名(28.6%)、“変化がなかった”が8名(28.6%)、“ある程度悪化した”が2名(7.1%)“わからない”が7名(25%)でした。
“患者本人の生活の質に関して、どのような影響があったと思いますか?”という質問については“とても改善した”と答えたのが3名(10.7%)、“ある程度改善した”と答えたのが10名(35.7%)、“変化がなかった”と答えたのが10名(35.7%)、“わからない”が5名(17.9%)でした。“保護者の生活の質に関してどのような影響がありましたか?”との質問に対しては、“とても改善した”が4名(14.3%)、“ある程度改善した”が10名(35.7%)、“変化がなかった”が11名(39.3%)、“ある程度悪化した”が1名(3.6%)、“わからない”が2名(7.1%)でした。

 

相関関係について:
調査に回答して頂いた方のうち、効果が認められた群とそうでない群にわけた上で、どのような要素が重要なのか統計学的に解析しましたが、摂取量、発作型、診断名のいずれも有意差は認められませんでした。

○考察と社会的意義

今回の調査は、患者家族の記憶に基づいた自己申告をベースとしたものであり、信用性の高い手法とは言えません。また回答してくれた方は、してくれなかった方よりもCBDの恩恵を強く感じている=バイアスが働いている可能性も高いと思われます。そのような問題点はあるものの、これが日本における難治てんかん患者を対象とした最初の横断調査であり、日本人にとってもCBDが効果的であることを示唆する初めての調査結果と言えるでしょう。
また重要な点は、現在治験対象となっている三疾患(ドラべ症候群・レノックスガストー症候群・結節性硬化症に伴う難治てんかん)の患者群と比較した際に、対象となっていないウエスト症候群や大田原症候群などの患者でも、同程度の効果が期待できることを示唆している点です。これは将来的にEpidiolexの治験が終了した際に、どのような疾患を保険適応対象とするかを考慮する際に、価値のあるエビデンスとなることが期待されます。

○数々の困難を超えて・謝辞

この調査を企画立案し、形にするまでの道のりは決して平坦なものではありませんでした。まず第一に、学術論文として報告するためにはいずれかの倫理委員会で倫理審査を通過する必要があります。この研究がCBDという大麻由来の成分、しかもサプリメントの使用を前提としていることは、倫理審査を行う保守的な人々の敬遠の対象となりました。
結果的に、私は3つの倫理委員会に拒絶され、最終的に臨床カンナビノイド学会に倫理委員会を新規に開催してもらうことで、ようやく研究計画の了承を得ました。我々が行っているアクションが、国内で食品として流通しているものを摂取している方に対して、ネットでアンケートをとるという侵襲性が全くない内容であることを考えると、これは奇妙な現象です。
論文の投稿・採択に関しても受難は続きました。国際的にはCBDがてんかんに対して効果があるというのは既に常識になりつつあります。つまり我々が行った調査には新規性は乏しく、学術的な価値はないということです。しかし日本国内では、この調査が示している事象は革新的に過ぎるのか、国内ジャーナルの査読者からは、”この種の調査は処方箋医薬品としてのCBD製剤が国内承認されるまで待つべきである”とのコメントがつき、掲載は拒否されました。最終的にアジアのジャーナルという、国際社会と日本の間をとる形での掲載となりました。
このように100点満点とは言えませんが、2年以上抱えていた案件が形になったことでようやく肩の荷が降りた安心感を感じています。調査に回答頂きました皆様、共同研究者の先生方、英語の校正に協力してくれたGreen Zone Japanの三木直子さん、そして本調査の結果をSNSを用いて拡散してくださる貴方に、心からの感謝を申し上げます。

原著論文はこちらから無料でお読み頂けます。

執筆:正高佑志(医師・Green Zone Japan代表理事)

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