カナダでは2018年10月に、娯楽目的の大麻の使用が「大麻法(Cannabis Act)」によって合法化されました。この法律の大きな目的の一つは、若者の健康を守り、彼らの手に大麻が渡らないようにすることです。しかし、合法化から数年が経過した今、実際にカナダの若者たちの間で大麻の使用状況や意識はどのように変化したのでしょうか。
本記事では、2014-15年度から2023-24年度までの10年間にわたる「カナダ学生アルコール・薬物調査(CSADS)」のデータを分析した最新の研究報告に基づき、カナダの中高生における大麻使用の現状を解説します。
調査の背景:若者の脳への影響と法的規制
若者の脳は25歳前後まで発達し続けるため、大麻の主成分であるTHCの影響を特に受けやすいことが知られています。カナダ政府は若者を保護するため、大麻の購入可能年齢を原則18歳以上(州により19歳、ケベック州は21歳)に設定し、若者を惹きつけるようなパッケージや広告を厳格に禁止しています。今回の調査対象となったCSADSは、カナダの10州の7年生から12年生(日本の中学1年生から高校3年生に相当)を対象とした大規模な継続調査であり、約26万人のデータに基づいています。
大麻使用率の推移:懸念された”若者での爆発的な広がり”は起きず
調査の結果、過去10年間で学生全体の大麻使用率(過去12ヶ月以内の使用、過去30日以内の使用、頻繁な使用)に大きな変化は見られませんでした。合法化によって若者の使用が爆発的に増えるのではという事前の懸念は現実のものとはなっていません。
しかし、データを詳細に分析すると、気になる変化が浮き彫りになりました。
低学年(7〜9年生)と女子学生での増加: 全体では横ばいである一方、中学1〜3年生に相当する層と女子学生においては、大麻の使用率が上昇していました。
開始年齢の低下: 特に7〜9年生の層では、大麻を初めて使用する平均年齢が2014-15年度の13.0歳から2023-24年度には12.4歳へと低下しています。
性差の変化: 伝統的に男子学生の方が使用率が高い傾向にありましたが、近年は女子学生の使用率が男子に並ぶ、あるいは上回る傾向が見られます。これは社会的な規範の変化や、メンタルヘルスの問題に対処するための手段として女子学生が大麻を利用している可能性が指摘されています。
摂取方法の劇的な変化:喫煙から「Vaping」へ
この10年で最も顕著な変化は、大麻の摂取方法です。以前は「巻きたばこ(ジョイント)」などによる喫煙が主流でしたが、最新の2023-24年度の調査では、ベイピング(電子機器による吸引)が喫煙を抜き、最も一般的な摂取方法となりました。
ベイピングの普及: 過去1年間に大麻を使用した学生のうち、実に72%がベイプを利用したと回答しています。
高濃度THCのリスク: 市販されている大麻リキッドの多くはTHC濃度が90〜98%と極めて高く、依存症や副作用のリスクを高める懸念があります。
その他の方法: 喫煙や「ダビング(高濃度抽出物の吸引)」は減少傾向にある一方で、大麻入りの食品(エディブル)の摂取は増加し、近年は横ばい状態にあります。
アクセスの容易化とリスク認識の低下
合法化に伴い、学生たちの主観的な感覚にも変化が生じています。
入手しやすさの向上: 大麻を「非常に簡単」または「かなり簡単」に入手できると感じている学生の割合は、2014-15年度の41.4%から2023-24年度には49.2%に増加しました。
入手先の変化: 最も一般的な入手先は依然として友人や家族などの「社会的ルート」ですが、合法的な店舗から購入(あるいは誰かに買ってもらう)するケースが、未成年であるにもかかわらず増加しています(2018-19年度の1.9%から2023-24年度には7.4%へ)。
リスク認識の低下: 定期的に大麻を喫煙することに対するリスク認識(「大きなリスクがある」と感じる割合)は、時間の経過とともに低下しています。
健康への影響に関する知識
2023-24年度の調査では、具体的な健康リスクについての知識も問われました。
多くの学生が「依存症のリスク(82.1%)」や「記憶力・注意力への悪影響(76.5%)」については認識していましたが、「不安やうつ病の発症・悪化」といったメンタルヘルスへのリスクを認める割合は68.9%と、相対的に低い結果となりました。
乗り物に関する危険行動:同乗リスクの増大
大麻使用直後に自分で運転する行為の割合には大きな変化はありませんでしたが、「大麻を使用した人が運転する車に同乗した」経験を持つ学生の割合は、2016-17年度以降有意に増加しています。特に高校生(10〜12年生)では、3割近くの学生が過去にそのような経験があると回答しており、安全教育の必要性が示唆されています。
結論と今後の課題
カナダにおける嗜好用大麻の合法化は、学生全体の爆発的な使用増加を招くことはありませんでした。この10年間にわたる経験は、「大麻の合法化は社会の崩壊を招かない」という強力なメッセージを世界に発信しています。しかし、以下の点は今後の重要な課題として注視し続ける必要があります。
・若年層(中学相当)および女子学生における使用率の上昇と開始年齢の早期化。
・高濃度THCを含むベイピング製品の普及。
カナダ政府は、学校ベースの啓発キャンペーンなどを通じて、大麻が若者の脳やメンタルヘルスに与える影響について教育を続けています。合法化という新しい環境下で、若者たちが正しい知識を持ち、自身の健康を守るための意思決定ができるよう、継続的なモニタリングと支援が求められています。
参考:Changes in patterns of use and perceptions of cannabis among students in Canada: A decade of data from the Canadian Student Alcohol and Drugs Survey.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2772724625000824
執筆者: 正高佑志 Yuji Masataka(医師) 経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。 研究分野:臨床カンナビノイド医学 活動: 2017年に一般社団法人Green Zone Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。令和6年度厚生労働特別研究班(カンナビノイド医薬品と製品の薬事監視)分担研究者。 書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン) 所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員) 更新日:2026年1月27日
執筆者: 正高佑志 Yuji Masataka(医師) 経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。 研究分野:臨床カンナビノイド医学 活動: 2017年に一般社団法人Green Zone
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