2018年、カナダでは大麻が連邦レベルで合法化されました。それ以来、シニア層(50歳以上)の大麻利用は着実に増加しており、他のどの年齢層よりも新規利用者の伸び率が高いことが報告されています。しかし、これほどまでに利用が広がっている一方で、高齢者が大麻をどのように認識し、安全性や有効性について何を感じているのかについては、これまで十分に解明されていませんでした。
最新の研究論文「Cannabis Use and Perceptions of Cannabis Safety, Effectiveness, and Stigma amongst older Canadians」は、1,615名のカナダ人高齢者を対象にした大規模なアンケート調査を通じて、この謎に迫っています。今回のブログでは、その驚くべき調査結果を詳しく解説します。
- 調査の背景:なぜ今「シニアの大麻意識」なのか?
カナダ統計局のデータによれば、50歳以上のカナダ人の約30%が大麻を利用しており、そのうち約40%が合法化以降に初めて大麻を使い始めたといいます。シニア層が大麻を利用する目的は、レクリエーション(娯楽)だけでなく、健康維持や症状緩和などの医療目的も含まれます。
しかし、これまで発表されてきた大麻に関するデータの多くは、成人全般を対象としたものでした。高齢者は「ベビーブーマー世代(約57〜75歳)」や「沈黙の世代(約76〜95歳)」など、生きてきた時代背景が大きく異なる多様なグループで構成されています。そのため、一括りに「高齢者」として扱うのではなく、年齢、性別、教育レベル、そして利用経験の有無によって、どのように意識が異なるのかを詳しく調査する必要があったのです。
- 調査方法:シニアの実態をあぶり出す
この調査は、2022年2月から9月にかけてオンラインで実施されました。対象は50歳以上のカナダ居住者で、以下の4つのカテゴリーに分類して分析が行われました。
・現在利用者(Current use): 頻度にかかわらず現在大麻を利用している。
・非利用者(Non-use): これまで一度も利用したことがない。
・以前の利用者(Prior use): 過去に利用したことはあるが、現在は利用していない。
・検討中(Considering use): 利用したことはないが、利用を検討している。
回答者のデモグラフィック(属性)は、男性49.7%、女性48.6%とほぼ半々で、平均して教育水準が高く、都市部居住者が多いという特徴がありました。
- 利用実態:4割以上が「現在利用中」
調査の結果、回答者の43.9%が「現在大麻を利用している」と回答しました。これは過去の統計データ(10%前後)と比較しても非常に高い数値です。この背景には、合法化から時間が経過し、社会的な受容が進んだことや、大麻に関心の高い層が積極的にアンケートに回答したというバイアスも考えられますが、シニア層にとって大麻が身近な存在になっていることは間違いありません。
利用目的の内訳は以下の通りです。
・レクリエーション目的:47.3%
・医療目的:32.7%
・その両方:18.8%
また、興味深いことに、年齢が上がるにつれて現在の利用率は低下する傾向にありました。50〜60歳の層と比較して、80歳以上の層が大麻を現在利用している確率は大幅に低いことがデータで示されています。
- 安全性と有効性への意識:根強い「情報不足」への不安
大麻に対するリスク認識については、約半数(49.3%)が「リスクは低い、または非常に低い」と考えていました。しかし、その一方で、安全性や有効性に関する科学的な情報については、多くのシニアが不満を抱いています。
・情報の欠如: 回答者の60.4%が「高齢者における大麻の安全性に関する情報が不足している」と感じており、63.8%が「有効性に関する情報が不足している」と感じています。
・医薬品との併用: 「大麻はほとんどの薬と一緒に使っても安全だ」と確信している人は、全体のわずか34.5%に留まりました。
特に、女性や最高齢層(80歳以上)ほど、情報の不足を強く感じる傾向にあります。これは、女性の方が健康や薬に関する情報をより熱心に探求する傾向があることや、医療目的での利用に関心が高いため、より確実なエビデンスを求めている可能性が示唆されています。
- 最大のリスクは何か?「認知機能」と「身体的健康」
回答者が大麻利用において最も懸念しているリスクは何でしょうか?自由記述形式の回答から、以下の傾向が明らかになりました。
1:認知機能・メンタルヘルスへの影響(40.8%): 記憶力の低下、判断力の鈍化、気分の変化などが最大の懸念事項として挙げられました。
2:身体的健康への影響(19.1%): 肺疾患、転倒のリスク(バランスを崩す)、他の薬との相互作用などです。
3:製品・情報への懸念(18.0%): 品質の不確実性、適切な情報へのアクセスのしにくさなど。
ここで興味深いのは、性別と年齢による懸念の違いです。男性(特に61〜80歳の層)は、女性と比較して身体的健康や認知機能への影響をより強く懸念する傾向がありました。一方で、女性は製品の品質や情報の不十分さをリスクとして挙げる割合が高くなっています。
- 社会的スティグマ:家族や友人の目をどう感じるか?
大麻が合法化されたとはいえ、長らく「違法薬物」として扱われてきた歴史が、シニアの意識に影を落としています。調査では、約3分の1(34.7%)の回答者が「家族や友人の間で大麻に対する否定的な偏見(スティグマ)がある」と感じています。
この偏見に対する意識は、以下の層で特に強く見られました。
・非利用者: 実際に大麻を使っていない人ほど、周囲の目を気にする傾向があります。
・高齢層: 「沈黙の世代」に近い高齢層ほど、かつての大麻禁止政策や「大麻は入門薬(ゲートウェイドラッグ)である」という教育の影響を強く受けており、偏見を感じやすいことが指摘されています。
逆に、ベビーブーマー世代は、合法化によって大麻が社会的に「正当化」されたと捉え、社会的受容が進んだと感じる傾向にあります。
- 教育レベルと大麻利用の意外な関係
今回の調査では、教育レベルが大麻利用に与える影響も分析されました。意外なことに、大学院卒や専門職学位を持つ層よりも、大学卒や高校卒の層の方が、大麻を現在利用している確率が高いという結果が出ています。
また、高校卒以下の層は、大学院卒以上の層と比較して、「大麻はほとんどの薬と併用しても安全である」と考える傾向が強いことも分かりました。これは、教育レベルによって情報の入手先や情報の信憑性に対する判断基準が異なる可能性を示しており、公共保健機関が情報を届ける際の重要なヒントになります。
- まとめ:これからのヘルスケアに求められること
本調査の結果から、カナダのシニア世代にとって大麻は身近な存在になりつつあるものの、「本当に安全なのか?」「どの程度効果があるのか?」という疑問に対する答えは、まだ十分に届いていないことが浮き彫りになりました。
特に以下の点は、今後の医療現場や公共保健において重要です。
・世代と性別に合わせた情報提供: 女性はより詳細な製品情報や有効性データを求めており、男性は身体・認知機能へのリスク情報を求めています。一律のパンフレットではなく、対象のニーズに合わせた教育が必要です。
・偏見の解消: 医療目的での利用を検討している高齢者が、家族や周囲の目を気にして相談をためらうことがないよう、社会的な対話を促進する必要があります。
・デジタル・リテラシーへの配慮: 多くのシニアがオンラインで情報を探していますが、世代によってそのスキルには差があります。情報のアクセシビリティ(使いやすさ)を確保することが不可欠です。
結論として、高齢者の大麻利用は個人の選択であると同時に、社会全体で支えるべき課題でもあります。科学的な根拠に基づいた信頼できる情報が、それを最も必要としているシニア世代に適切に届くようになることが、今後の健全な大麻政策の鍵となるでしょう。
出典: Bolt, J., et al. (2025). “Cannabis use and perceptions of cannabis safety, effectiveness, and stigma amongst older Canadians: A cross-sectional survey.” Cannabis, 8(2), 1-17.
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