
妊娠中の大麻・オピオイド使用と赤ちゃんの体重の関係とは
妊娠中の物質使用が胎児に与える影響については、これまで数多くの研究が行われてきましたが、その結果は一貫していませんでした。特に大麻については、合法化が進む米国において妊娠中の使用実態や胎児への影響を正確に把握することが急務となっています。今回、米国の大規模縦断研究「HEALthy Brain and Child Development(HBCD)Study」から得られた最新データが、小児科学の専門誌Pediatricsに発表されました。この研究は、妊娠中のニコチン、アルコール、大麻、オピオイドへの曝露が、在胎週数、出生体重、そして在胎週数に対する出生体重(パーセンタイル)にどのような関連を持つかを検証したものです。
研究の背景:なぜこの研究が重要なのか
大麻は多くの地域で合法化・非犯罪化が進み、妊娠中の使用者も増加傾向にあると報告されています。一方で、妊娠中の大麻使用が胎児の発育にどのような影響を及ぼすかについては、既存研究の間で結果にばらつきがあり、明確なコンセンサスが得られていませんでした。同様に、オピオイド、ニコチン、アルコールについても、出生時のアウトカムとの関連は報告されているものの、精度の高いデータが求められていました。HBCD Studyは、米国内の複数施設が参加する大規模な縦断研究であり、母親の自己申告だけでなく、母体の毒性検査結果や新生児の物質曝露関連の診断も組み合わせることで、より正確な曝露評価を可能にしている点が特徴です。
研究方法:660組の母子ペアを対象に
この研究では、660組の母子ペアのデータが解析されました。各物質について事前に定義された「最小限を超える曝露」の基準(recruitment thresholds)が設定され、母親の自己申告、母体の毒性検査結果、そして新生児の物質曝露関連の診断を組み合わせて評価が行われました。出生時のアウトカムとしては、分娩時の在胎週数(週)、出生体重(グラム)、そして在胎週数に対する出生体重(パーセンタイル)が測定されました。物質曝露と出生アウトカムとの関連は、多水準混合効果線形回帰または多水準混合効果ポアソン回帰を用いて、平均差およびリスク比として推定されています。
結果:大麻とオピオイドへの曝露で出生体重が有意に低下
660組の母子ペアのうち、妊娠中の大麻曝露の基準を満たしたのは17%(n=115)でした。ニコチンは15%(n=102)、アルコールは13%(n=86)、オピオイドは5%(n=32)という結果でした。
調整モデルにおいて、妊娠中の大麻曝露とオピオイド曝露は、それぞれ独立して低出生体重と関連していました。具体的には、大麻曝露群では出生体重が平均272.2グラム低く(95% CI −444.6から−99.8)、オピオイド曝露群では平均295.4グラム低いという結果でした(95% CI −574.9から−15.9)。
出生体重パーセンタイルについても同様の傾向が見られ、大麻曝露群では8.2パーセンタイル低く(95% CI −15.3から−1.1)、オピオイド曝露群では14.4パーセンタイル低いという結果が示されました(95% CI −25.5から−3.4)。ただし、これらの結果はモデルの設定方法によって変動する「感受性が高い」ものであったことも報告されています。
一方、ニコチンとアルコールについては、大麻やオピオイドと同じ方向性(出生体重の低下)を示す推定値が得られたものの、統計的有意性には達しませんでした。また、いずれの物質についても、分娩時の在胎週数との間に有意な関連は検出されませんでした。
原論文の詳細はこちらから確認できます。
考察・意義:一貫しない先行研究に新たなエビデンスを追加
今回の結果は、妊娠中の大麻使用およびオピオイド使用が、より小さな出生サイズと関連する可能性を示すものであり、これまで一貫しない結果が報告されてきた先行研究に新たなエビデンスを加えるものです。特に大麻については、合法化が進む中で妊娠中の使用に関するリスク評価がますます重要になっており、今回のような精密な曝露評価を伴う研究の意義は大きいといえます。
ただし、著者らも指摘しているように、大麻とオピオイドに関する結果はモデルの仕様(どのような変数を調整するか、どのような統計手法を用いるかなど)によって変動する部分があり、結果の解釈には慎重さが求められます。また、この研究は観察研究であるため、因果関係を断定することはできません。大麻やオピオイドを使用する母親には、他の生活習慣や社会経済的要因、併用物質の存在など、出生体重に影響しうる交絡因子が存在する可能性があります。
また、ニコチンとアルコールについては統計的有意性が得られなかった点も重要です。これは、これらの物質に影響がないことを意味するのではなく、今回のサンプルサイズや曝露の程度では、統計的に検出可能な差が確認できなかった可能性を示唆しています。実際、ニコチンとアルコールの推定値も大麻・オピオイドと同じ方向を示していたことは注目に値します。
まとめ:今後さらなる追跡調査が期待される
HBCD Studyは今回が初期のデータリリースであり、著者らは今後、各物質の曝露のタイミングや用量についてより詳細に検証し、さらに小児期のアウトカムにまで解析を拡大していく予定であると述べています。妊娠中の大麻使用やオピオイド使用が出生体重に与える影響について、より確度の高いエビデンスが今後蓄積されていくことが期待されます。
本記事で紹介した内容は、あくまで研究結果の情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイスではありません。妊娠中の物質使用に関して不安や疑問がある方は、必ず医療専門家にご相談ください。
参考文献
Bandoli G, Psaras C, Bakhireva LN, et al. Prenatal Substance Exposure and Birth Weight: Findings From the HEALthy Brain and Child Development Study. Pediatrics. 2026. DOI: 10.1542/peds.2025-074604
PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42184970/
経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。
研究分野:臨床カンナビノイド医学
活動: 2017年に一般社団法人Green Zone Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。令和6年度厚生労働特別研究班(カンナビノイド医薬品と製品の薬事監視)分担研究者。
書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン)
所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員)
更新日:2026年7月15日
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