小児てんかんへのCBD治療、1年後の実態は

2026.08.05 | 大麻・CBDの科学 | by greenzonejapan
ARTICLE
小児てんかんへのCBD治療、1年後の実態は
2026.08.05 | 大麻・CBDの科学 | by greenzonejapan
インフォグラフィックス

難治性てんかんを抱える子どもとその家族にとって、発作のコントロールは切実な課題です。既存の抗てんかん薬が効かない場合、CBD(カンナビジオール)が新たな選択肢として注目されてきました。しかし、実際の臨床現場でCBDがどれほど有効で、どれほどの患者が治療を継続できるのかについては、まだ十分なデータが揃っていません。今回紹介するのは、オーストラリアで行われた103人の小児てんかん患者を対象とした1年間の前向き観察研究です。結果を先取りすると、治療を継続できた患者の40%が「大幅に改善」と評価された一方、46%もの患者が12か月以内に治療を中断していました。この一見矛盾するような結果が何を意味するのか、詳しく見ていきましょう。

研究の背景

てんかんは世界中で約5000万人が罹患していると推定される神経疾患であり、そのうち3分の1以上は既存の薬物治療に反応しない「薬剤抵抗性てんかん」に分類されます。薬剤抵抗性てんかんは発作の頻度や重症度だけでなく、患者と家族の生活の質にも深刻な影響を及ぼします。

CBDは大麻に含まれる非精神活性成分であり、いくつかの臨床試験でその抗けいれん作用が示されてきました。特に難治性てんかんの一部の症候群では、CBDを含む医薬品が承認されている国もあります。しかし、実臨床における長期的な有効性や忍容性、そしてどのような患者が実際に恩恵を受けやすいのかについては、依然として不明な点が多く残されています。今回の研究は、こうした臨床現場でのリアルワールドデータを収集することを目的として実施されました。

研究方法

本研究は、オーストラリアの複数施設で実施されたオープンラベルの観察研究です。対象となったのは、コンパッショネート・アクセス制度(人道的見地から未承認薬へのアクセスを認める制度)を通じて精製CBDの投与を受けた小児てんかん患者103人でした。

臨床医はベースライン(治療開始時)、3か月後、12か月後の3つの時点でデータを収集しました。収集された情報には、発作頻度、入院歴、併用薬の使用状況、有害事象などが含まれます。てんかんの重症度は「Global Assessment of Severity of Epilepsy」という評価尺度を用いて測定され、全体的な改善度は「Clinical Global Impression Improvement(CGI-I)」スケールによって評価されました。

結果

治療を開始した患者のうち、46%が12か月を待たずに治療を中断していました。中断の主な理由は「効果が乏しいこと」(31人)と「有害事象」(7人)でした。約半数近くの患者が1年以内に脱落したという事実は、CBD治療の実臨床における継続性の課題を浮き彫りにしています。

一方で、治療を継続できた患者に限ってみると、その40%が12か月時点でCGI-Iスケール上「著明改善(much improved)」以上と評価されました。これらの患者では、てんかんの重症度、発作頻度、併用薬の使用量、てんかん重積状態の発生、救急受診、入院のいずれにおいても持続的な改善が認められました。

安全性については、有害事象の報告があったのは全体の31%であり、その多くは軽度から中等度のものでした。重篤な有害事象について具体的な発生率はアブストラクトには記載されていませんが、「mostly mild to moderate(大部分は軽度から中等度)」という表現から、深刻な副作用は比較的限定的であったことがうかがえます。

詳細は原論文をご参照ください。

考察・意義

この研究結果は、CBD治療が一部の小児てんかん患者にとって明確な恩恵をもたらす可能性を示す一方で、その恩恵がすべての患者に及ぶわけではないという現実も同時に伝えています。継続患者の40%が大幅改善を示したという数字は、既存の薬剤に抵抗性を示す患者群においては決して小さな成果ではありません。発作重症度の低下だけでなく、救急受診や入院の減少といった医療資源利用の面でも改善が見られた点は、患者・家族の生活の質および医療システム全体への負担軽減という観点からも注目に値します。

しかし同時に、46%という高い中断率は看過できません。特に中断理由の多くが「効果不十分」であったことは、CBDがすべての患者に一様に効くわけではないことを示唆しています。著者らも指摘するように、今後の研究課題は「CBDに反応しやすい患者をどう見分けるか」というバイオマーカーや臨床的特徴の特定に向かうべきでしょう。

本研究はオープンラベルの観察研究であり、プラセボ対照群を伴う無作為化比較試験ではありません。そのため、観察された改善がCBDそのものの薬理効果によるものか、他の要因(例えば経過観察による医療的関与の増加や、期待効果など)によるものかを厳密に区別することはできません。また、対象者数が103人と比較的限られており、症候群別のサブグループ解析などについてはアブストラクトからは読み取れません。今後、より大規模かつ長期的な追跡調査、可能であれば対照群を伴う研究デザインでの検証が望まれます。

まとめ

今回のオーストラリアの研究は、小児の難治性てんかんに対するCBD治療について、リアルワールドでの有効性と忍容性の両面を示す貴重なデータを提供しています。治療継続者の40%が大幅改善を示した一方、46%が主に効果不足を理由に治療を中断したという事実は、CBDが「万能薬」ではなく、患者を選ぶ治療法である可能性を示しています。

CBD治療を検討されているご家族にとって重要なのは、期待される効果とともに、一定の割合で効果が得られない、あるいは治療継続が困難になる可能性があるという現実を理解した上で、主治医と十分に相談しながら治療方針を決めていくことです。本記事は医学的助言を目的としたものではなく、あくまで研究知見の紹介を目的としています。治療の判断は必ず専門医にご相談ください。

参考文献

Halman A, Freeman JL, Fahey M, Chenhall R, Perkins D. Effectiveness and tolerability of cannabidiol in paediatric epilepsy: a one-year multisite prospective study. Epilepsy & Behavior. 2026. DOI: 10.1016/j.yebeh.2026.111095
PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42161151/

正高佑志

執筆者: 正高佑志 Yuji Masataka(医師)
経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。
研究分野:臨床カンナビノイド医学
活動: 2017年に一般社団法人Green Zone Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。令和6年度厚生労働特別研究班(カンナビノイド医薬品と製品の薬事監視)分担研究者。
書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン)
所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員)
更新日:2026年7月21日

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

«
»
SUPPORTERS
ご支援に感謝いたします