
妊娠中の大麻使用が増えている今、伝え方が問われている
アメリカでは近年、妊娠期や産後における大麻使用が増加傾向にあります。大麻の合法化が進み、入手しやすさや社会的な受容度が高まったことがその背景にあると考えられています。一方で、妊娠中の大麻使用が妊娠高血圧症候群、早産、低出生体重児など、母体と胎児双方の健康リスクの増加と関連するというエビデンスも蓄積されつつあります。
こうした状況を受けて、医療現場では妊産婦に対して大麻使用のリスクを伝える標準的な健康警告の必要性が高まっています。しかし、実際に大麻を定期的に使用している妊産婦に「響く」メッセージとはどのようなものか、これまで十分に検証されてきませんでした。今回紹介する研究は、妊娠初期に大麻を日常的または週単位で使用していた産後の女性たちに、実際の健康警告メッセージを見せて意見を聞くという、非常に実践的なアプローチを取ったものです。
なぜこの研究が重要なのか
多くの州では大麻製品のパッケージや小売店に妊娠中の使用に関する警告表示を義務付けています。カリフォルニア州では「妊娠中の使用を避けるように」といった安全使用情報の表示が義務化されており、小売店にも周産期リスクに関する情報掲示が求められています。しかし、その内容は具体的に定められていません。
先行研究では、妊娠中の大麻使用に対する警告表示が、かえってスティグマ(社会的烙印)を助長し、使用そのものを抑止する効果が乏しいばかりか、大麻を使用する妊婦が出産前ケアを受けること自体を避けさせてしまう可能性が指摘されていました。つまり、単に「やめなさい」と警告するだけでは、意図した効果が得られないどころか、逆効果になりかねないのです。この課題に対応するため、研究チームは実際に大麻を使用していた当事者の声を集め、どのようなメッセージング(伝え方)が受け入れられやすいのかを明らかにしようとしました。
研究方法
本研究は、カイザー・パーマネンテ・ノーザンカリフォルニア(KPNC)で実施された大規模な質的研究の一部として行われました。対象となったのは、初めて出産した経験があり、単胎の生児出産をした産後4か月から12か月の女性で、2020年7月から2021年12月の間に、妊娠初期(妊娠約8週時点)の出産前ケア開始時に、大麻を日常的または週単位で使用していたと自己申告した人たちです。もともと17名が参加していましたが、1名がメッセージングに関するインタビューを受けていなかったため、最終的な分析対象は16名となりました。
研究チームは、半構造化インタビューガイドを用いて、周産期の大麻使用に関する健康情報や警告を含む4種類の異なるメッセージについて、参加者の意見を聞き取りました。メッセージ1とメッセージ2は、産婦人科医と協力して開発された比較的長文のもので、リスク情報や行動変容を促す内容、そしてハームリダクション(被害軽減)重視か断薬重視かといった枠組みの違いを検証する目的で作成されました。メッセージ3はパッケージに適した短い警告文とグラフィック、メッセージ4はカナダ政府やアメリカの非営利団体の警告表示を参考にした、複数の警告とイラストを含むチラシ形式のものでした。
インタビューは2022年4月から5月にかけて、経験豊富な女性の博士号取得研究者がオンライン会議システムを通じて実施しました。インタビュアーがメッセージを画面に表示しながら読み上げ、参加者はそれを見ながら意見を述べる形式が取られました。参加者にはインタビュー後、50ドルの謝礼が支払われています。得られたデータはテーマ分析という手法を用いて分析されました。
結果:16名の当事者が語った「受け入れがたいメッセージ」と「受け入れやすいメッセージ」
最終的にメッセージ1については16名、メッセージ2については15名、メッセージ3については6名、メッセージ4については5名から意見が寄せられました。参加者は21歳から33歳、産後6か月から11か月で、人種・民族の内訳は黒人が4名、ヒスパニックが4名、白人が8名でした。原論文によれば、どのメッセージも全参加者に完全に受け入れられたわけではありませんでしたが、分析の結果、受け入れられやすい健康メッセージには共通する3つの重要な要素があることが明らかになりました。
第一に、中立的な言葉と画像を使用することです。「妊娠中・授乳中は使用しないように」という直接的な指示は、参加者に「判断されている」という感覚を抱かせ、効果的ではありませんでした。もし大麻販売店にそうした警告表示があった場合、参加者自身が購入することは避けるようになるものの、パートナーなど他者に購入を依頼することで使用自体は継続するだろうと述べた人もいました。またメッセージ3のようなインパクトの強いネガティブな画像や言葉は、目を引く一方で恥や罪悪感を呼び起こし、かえって医療者との対話を妨げる可能性が示されました。
さらに、参加者は政府からの勧告や警告に対して不信感を抱く傾向があることも分かりました。ある参加者は、女性の身体的自律性への政府の介入という政治的文脈を指摘しています。一方で、米国疾病予防管理センター(CDC)については、研究に基づいて意思決定を行っている機関として、より信頼されている様子がうかがえました。また、政府よりも自身の主治医からの推奨や警告に対しては、より開かれた姿勢を示す参加者が多く見られました。
第二に、健康リスクに関する具体的なエビデンスを含めることです。参加者は、具体的にどのようなリスクがあり、それがどのように明らかにされたのかについて、より詳しい情報を求めていました。この傾向は、大麻の医療的効能を強く信じている参加者において特に顕著でした。多くの参加者は、自分自身や周囲の人々が実際に悪影響を経験したり目撃したりしていないため、妊娠中の大麻使用による悪影響について懐疑的でした。
第三に、大麻使用に関する選択肢や代替案を提示することです。特にメッセージを見ても使用をやめるつもりはないと述べた参加者ほど、選択肢を含むメッセージを評価していました。大麻の煙にタバコの煙と同様の毒性物質が含まれていることを知らない、あるいは信じていない参加者も多く、エディブル(食用製品)や外用製品への切り替え、あるいは使用頻度の減少といった代替案を含めることが望まれていました。
加えて、参加者は周産期の大麻使用のリスクや代替案について、主治医と率直に話し合う機会があれば歓迎すると述べています。医師から対話へ招かれることで、判断されているという感覚が和らぐと感じる参加者も多くいました。
考察:スティグマを避けつつ、いかにリスクを伝えるか
この研究は、妊娠中に定期的に大麻を使用している人々に受け入れられやすいメッセージングの要素を明らかにしました。事実に基づいた言葉遣い、政府ではなく医療機関からの発信、恐怖を煽らない画像、そして信頼できる医療提供者との対話へのオープンな姿勢は、大麻使用者が判断されていると感じたりスティグマを抱いたりすることを防ぐ一助となる可能性があります。
こうした否定的な感情は、医療現場での助けを求める行動や使用の開示を妨げる要因になり得ます。妊娠中の大麻使用は健康上の問題や健康格差を悪化させる可能性がある一方で、使用者を疎外することは、こうした悪影響を改善することをより困難にし、出産前ケアの回避が母体と赤ちゃん双方への害につながりかねません。
興味深いことに、一般集団を対象とした他の研究では、「妊娠中・授乳中は使用しないでください」という明確で曖昧さのない表現に問題は見られなかったとされています。しかし本研究では、妊娠中や授乳中に定期的に大麻を使用している人々にとって、そうした表現は必ずしも受け入れられるメッセージングではないことが示されました。これは、対象集団によって効果的な伝え方が異なる可能性を示唆する重要な知見です。
また、政府を情報源とすることへの不信感についても、新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、アメリカ政府の健康関連の勧告に対する不信感が高まっているという背景と関連している可能性があります。「政府の警告」よりも「医学的警告」というラベルの方が中立的に受け止められ、より効果があるかもしれないと研究チームは指摘しています。
タバコの禁煙に関する先行研究では、目立つ位置に詳細でエビデンスに基づいた健康警告を掲示することが、妊娠中の使用を減らすことに一定の成果を上げてきました。大麻についても同様に、定期的な使用者には代替療法やカウンセリングなど、追加的な社会的支援や医療的介入が禁煙・減量の助けになる可能性があります。
研究の限界
この研究にはいくつかの限界があります。まず、対象者は保険に加入し出産前ケアを受けていた人々であり、嗜好用大麻への合法的なアクセスを持つ層からの募集でした。保険に加入していない、あるいは医療にアクセスしにくい妊産婦は、周辺の人間関係や大麻販売店、インターネットなどからより多くの情報を得ている可能性があり、本研究の結果がそのまま当てはまるとは限りません。
また、画像を含むメッセージ(メッセージ3・4)についてフィードバックを提供した参加者は少数(それぞれ6名、5名)にとどまっており、画像に関する分析には限界があります。さらに、本研究はどのメッセージが実際に大麻使用を減らす効果があるかを検証したものではなく、あくまで受容性についての質的な知見にとどまる点にも注意が必要です。
まとめ
この研究が示したのは、妊娠中の大麻使用に関する健康メッセージは、単に「やめなさい」と伝えるだけでは効果が乏しく、むしろ使用者を医療から遠ざけてしまうリスクさえあるということです。中立的な言葉遣いと画像を用いること、政府ではなく信頼できる医療機関からの情報として提示すること、具体的なエビデンスを示すこと、そして代替案や選択肢を提案しながら主治医との対話を促すこと。これら4つの要素が、当事者にとって受け入れやすい健康メッセージングの鍵であることが、16名という限られた人数ながら明らかになりました。
妊娠・出産・育児と大麻使用というデリケートなテーマについて、医療従事者と患者が判断や非難を恐れることなく率直に話し合える関係を築くことこそが、母子の健康を守る第一歩なのかもしれません。今後は、こうしたメッセージングが実際の使用行動にどのような影響を与えるのか、より大規模な検証が期待されます。
参考文献
Ogden SN, Foti TR, Does MB, Altschuler A, Iturralde E, Ansley D, Castellanos C, Young-Wolff KC. Clinical Health Messaging for Perinatal Cannabis Use: Perspectives From Postpartum Individuals With Use During Early Pregnancy. Substance Use & Addiction Journal. 2026.
DOI: 10.1177/29767342261449036
PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42105245/
経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。
研究分野:臨床カンナビノイド医学
活動: 2017年に一般社団法人Green Zone Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。令和6年度厚生労働特別研究班(カンナビノイド医薬品と製品の薬事監視)分担研究者。
書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン)
所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員)
更新日:2026年7月20日
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