厚労省特別研究班・令和8年度の調査の一環として、聖マリアンナ医科大学教授で日本臨床カンナビノイド学会の理事長である太組一朗先生とともに視察に訪れたスペイン。マドリードにあるコンプルテンセ大学を拠点に、30年にわたってカンナビノイドの研究を続けてきた高名な医療大麻研究者、マニュエル・グズマン(Manuel Guzmán)博士とクリスティーナ・サンチェス(Cristina Sánchez)博士に、大学の研究室でお話を伺いました。
『WEED THE PEOPLE』をご覧になった方は記憶にあるかもしれませんが、グズマン博士とサンチェス博士は、大麻の持つ抗腫瘍(抗がん)作用の研究で有名です。Part I では、お二人の研究のこれまでとこれからについて伺います。
グリオブラストーマ(膠芽腫)の臨床試験 ― THC注射から経口投与へ
グズマン博士:私たちは20年前、世界で初めてグリオブラストーマ患者を対象とした臨床試験を行いました。THCを腫瘍に直接注射するという方法で、正直、良いアイデアだったと思います。きっかけは、ある脳神経外科医が「ラットやマウスに対して行っていたように、腫瘍周囲にTHCを注射すれば、患者の腫瘍内で高いカンナビノイド濃度を達成するための最も効率的な方法になるのでは」と提案してくれたことでした。
現在は別の臨床試験が進行中で、ほぼ最終段階にあります。全患者の登録が完了しており、まもなく終了する見込みです。今回の対象は再発グリオブラストーマではなく、初発・診断されたばかりの患者に対する一次治療です。投与方法は経口で、THC と CBD を1:1の比率で配合した Tilray 社の製剤を、グリオブラストーマの標準治療であるテモゾロミドと併用しています。30人の患者に対し、THC・CBD・テモゾロミドを経口投与しました。プラセボ群は設けていませんが、病院にはテモゾロミド単独治療への反応に関する長年の膨大なデータがあります。放射線治療とテモゾロミドという第一選択治療に、THC と CBD を上乗せする形の試験です。1年後には結果が出るのではないかと見ています。
乳がんの臨床試験計画 ― 最大のハードルは資金調達
サンチェス博士:私は乳がんを研究しており、臨床試験の実現に向けて動いています。現在、腫瘍内科医のグループが賛同してくれていて、当初はドイツの企業と組んで始める予定でしたが、その企業が方針を転換し、このプロジェクトはパイプラインから外れてしまいました。ですので今は資金探しの段階です。プロトコルも医師団もそろっているのに、足りないのは「製品+資金」という第三の要素。この試験を前に進めてくれる企業を積極的に探しているところです。
Green Zone Japan(以下 GZJ):どんな薬剤を想定しているのですか?
サンチェス博士:全草抽出物で、理想的には THC と CBD の両方を含むものです。比率は企業と相談の余地がありますが、全草抽出物で進めたいですね。
試験に賛同してくれている医師団は、スペインの乳がんを専門とする腫瘍内科医の大規模な協力ネットワークで、国内約200の病院で診療しています。理事会からも承認を得ているので、スペイン国内の複数の都市・病院で実施される予定です。対象は HER2 陽性乳がんです。これまでの基礎研究の多くもHER2陽性を対象にしており、作用機序についてよく理解しているからです。
GZJ:ここ数年で、ドイツが合法化するなど、医療大麻をめぐる状況は変化していますが、それでも臨床試験の資金調達は難しいのでしょうか?
サンチェス博士:基礎研究では資金調達に困ったことはありません。でも臨床研究となると話は全く別なんです。大規模な臨床試験のための資金源は非常に限られています。私が始めようとしている試験は 500〜600万ユーロ(9〜10億円)規模ですが、政府にはそういう規模の公募研究費がありません。だから民間企業と手を組むしかない。カンナビノイド関連に限らず、この国では臨床試験の資金調達自体が極めて難しいのです。
グズマン博士:資金を得るには大手製薬企業が必要になります。スペインに限らず西側諸国全体でそうですが、スペインの大規模臨床試験の 99%は産業界からの資金提供です。公的資金はごくわずか。今回のケースも同じ構造です。
特に特許を取得できない製品の場合が問題です。大手製薬企業は、利益と特許を得られると分かっているからこそ、臨床試験に資金と資源を投じます。しかし植物由来で特許化できないカンナビス製剤の場合 —— 企業が独自製剤を持っていて、それを特許で保護できる場合は別ですが —— 巨額を投じて成功しても、他社に模倣されるかもしれないという不安が常につきまといます。知的財産の問題は、カンナビノイド研究において世界的に、特にスペインでは非常に悩ましい課題です。公的資金がほとんどない以上、産業界に頼るしかなく、産業界は見返りがなければ投資したがらないのです。
研究者としての歩み ― カンナビノイドとの出会いと偶然の発見
GZJ:お二人は非常に長い間、大麻研究を続けていますね。何がきっかけでこの分野に入ったのですか? 1990年代ですよね?
サンチェス博士: はい。
グズマン博士:スペインでは、このテーマに関する最初の博士論文でした。
サンチェス博士: 当時、国内で大麻を研究しているグループは一つしかなく、通りの向こう側にある医学部が中枢神経系と神経伝達物質シグナルを研究していました。マニュエル(グズマン博士)は彼らと親しく、特に脂質代謝を専門とする代謝研究者でした。そこで共同研究をしようという話になりました。
グズマン博士:肝臓の脂質代謝に何らかの面白い作用があるか見てみよう、共同研究できるかもしれない、と考えたのです。
サンチェス博士:私は当時、学部課程を終えようとしていました。 最初に双方と話し、二つのグループをつなぐ役割になりました。そして博士論文のテーマをカンナビノイドにしたんです。それが始まりでした。
グズマン博士:大麻の抗腫瘍作用を発見したのはクリスティーナ(サンチェス博士)です。
GZJ: 抗腫瘍作用を見つけたのは、ある意味偶然だったと何かで読みました。
サンチェス博士:そうです。探していたわけではなく、見つけたのです。それ以来、それが私たちの主要な研究テーマになりました。もう30年になります。
グズマン博士:私たちはもともと中間代謝を研究していて、カンナビノイドとは無関係でした。ところが医学部グループとの共同研究とクリスティーナの博士研究以来、私たちは大麻に夢中になってしまったんです——大麻の研究にね。
サンチェス博士:私たちのグループは「シグナル伝達研究グループ」と言えます。カンナビノイドに曝露された細胞内で何が起こるのかを理解するのが主な目的です。企業や他のグループと共同し、天然・合成を含む THC・CBD 以外のカンナビノイドも調べてはいますが、それは副次的で、主として THC と CBD の作用機序を理解しようとしています。
グズマン博士:実際、大麻製剤の多くは THC、CBD、あるいはその両方を豊富に含み、さらに微量カンナビノイドが含まれています。微量カンナビノイドも興味深いですが、特にがん患者が実際に使うのは THC や CBD を多く含む抽出物です。 私たちは人的・資金的資源が限られているので焦点を絞る必要があり、クリスティーナが言ったように、カンナビノイド受容体がどのようにシグナルを送り THC に反応するか、そして CBD が THC の抗腫瘍作用をどう補完するかを主に研究しています。マウスのがんモデルでカンナビノイドがどう働くかについては相当多くのことが分かっているので、今度は患者で効くかどうかを確認する段階です。効くのか効かないのか、それを確かめるべきです。安全に、そしてできれば有効に患者に使うための前臨床情報はかなりあります。しかし問題は資金、インフラ、医療グループなど臨床試験に必要な体制です。これがスペインでのボトルネックなんです。
GZJ:スペインでカンナビノイドを研究する際、警察など規制当局から圧力や反対はありませんか?
グズマン博士:率直に言って、ありません。
サンチェス博士:今もありませんし、研究を始めた当初もありませんでした。資金配分機関から目を付けられたり差別されたと感じたこともありません。少なくとも前臨床研究ではね。でも臨床研究はまったく違います。ただ、それが大麻だからだとは思いません。スペインが臨床研究全般に十分投資していないからだと思います。
グズマン博士: 特に特許化できない製品ですね。
サンチェス博士:その通りです。
腫瘍内科医の関心 ― 「生活の質」の観点から
GZJ:腫瘍内科医とは連携していますか? がん専門医は医療大麻に関心を持っていますか?
サンチェス博士:ええ、幸い状況は変わってきています。数年前は「知る」ことに対する関心でしたが、今は「使う」ことに対する関心に変わっています。先ほど話した乳がん腫瘍内科医の協力グループも、臨床試験に意欲を持っています。ただ、彼らが主に関心を持っているのは患者の生活の質(QOL)であって、抗腫瘍効果そのものには懐疑的な面もあります。それは理解できます。でも、カンナビスが副作用への対処やがん患者の QOL 向上に役立つことは確信していて、そこに強い関心を持っています。
GZJ:2018年に来日したエイブラムス博士は、腫瘍内科は副作用を和らげられるという理由でカンナビス使用に最も関心を持ち、受け入れている診療科だとおっしゃっていました。
サンチェス博士:ここスペインでは、腫瘍内科医よりむしろかかりつけ医(家庭医)の方が関心が強いと思います。医師たちが目にするのは、カンナビスが睡眠・不安・痛みなど、がんに限らず多くの疾患に共通する、QOL に影響する症状を改善するということです。大麻はそういう場面でとてもよく効きます。私はそれが大麻の本質的な価値だと思います。かかりつけ医は、あらゆる症状を抱えた患者の QOL を日常的に管理する立場にあるので、大麻への関心もより強いんです——これは私の経験ですが。
「カンナビスはがんを治す」ではなく「補完療法」として
GZJ:私たちが映画『Weed the People』を日本に紹介したとき、SNS で宣伝をしたのですが、「カンナビスはがんに効くことがある」と伝えたところ、怒る人たちがいました。代替療法として「がんに効く」と言うと、大きな懐疑の目で見られますよね。そうした人たちには、どう答えていますか?
サンチェス博士:私はがんの治療について「治す(cure)」という言葉は使いたくありません。がんについて「代替医療」という言葉を使うのは非常に危険だと思っていて、そうすることに抵抗があります。私にとって大麻は代替療法ではなく「補完療法」です。科学的根拠は他の抗がん治療と同じ土俵にあります。腫瘍内科医が持つ武器の一つとして組み込まれるべきものです。
標準治療をやめてカンナビノイドだけの治療に切り替えたいという人がいると、私はとても不安になります。非常に厳しい状況にある患者から、「何でも試したい」というメールがたくさん届くんですが、大麻を、他の、科学的根拠のない代替療法と同列に扱われると、とても居心地が悪い。私たちが言っていることには科学的根拠があるんです。「大麻はがんを治す」とは言っていません。「試す価値のある可能性がある」と言っているのです——私がいろいろ条件付けをしながら話すのはそのためです。試す価値は間違いなくあると思いますが、患者に「あなたは治りますよ」とは決して言いません。それは言い過ぎです。
グズマン博士:クリスティーナに同意します。カンナビノイドは標準医療・主流の腫瘍学に組み込まれ、「代替」ではなく「補完」であり続けるべきだというのが私たちの考えです。効く可能性のあるケースにおける補完療法として、安全かつ有効である可能性があるからです。
GZJ:化学療法薬の効果を高めることもあると聞きますが?
サンチェス博士:前臨床(動物・細胞実験)の段階ではそうですね。ヒトで同じことが起こるかは分かりません。がん領域の問題は、臨床試験がまだ行われていないことです。標準治療との併用が単独治療より優れているかを検証する臨床試験はこれまで一件も行われていません。効くのかどうかさえ、試験がない以上わからない。「大麻が効いた」と語る患者の報告はたくさんあります。それが事実であることを心から願いますし、患者の声は尊重しますが、患者に伝える言葉には非常に慎重でなければなりません。
がんの種類を超えて
GZJ:がんにもさまざまな種類がありますが、お二人の研究はグリオブラストーマと乳がんに注力していますね。他のがん種への展開も考えていますか? そもそも、なぜこの二つを選んだのですか?
グズマン博士:私たちは最初はグリオブラストーマから始め、その研究を長く続けています。クリスティーナが乳がん研究を立ち上げたのはその後です。
グリオブラストーマの研究を始めた理由は単純です。カンナビノイドは主に中枢神経系に作用します。体内のCB1 受容体の大半はニューロンやグリア細胞に発現しているので、大麻ががんに効果があるとすれば、脳腫瘍でこそ成功の可能性が高いだろうと考えたのです。脳腫瘍細胞は高レベルのカンナビノイド受容体を発現しており、これは非常に興味深いことでした。でも、他の多くのがん種もカンナビノイド受容体を発現していることが後になってわかりました。
個人的には、他のがん種でも臨床試験を行う価値があると思っています。例えば炎症性の要素が強いがん——大腸がんや前立腺がんです。前立腺がんは進行に伴って神経内分泌的な表現型を持つ段階があり、神経伝達物質の受容体や CB1受容体の発現が増加します。また前立腺がんでは PI3 キナーゼ経路など、いくつかのシグナル伝達経路に変化が見られ、カンナビノイドがそこに抑制的・阻害的な効果を持つことも分かっています。がん細胞の生存・増殖に必要なこうした経路が、カンナビノイドの標的になり得るのです。もちろん乳がんもですが、個人的には前立腺がんや大腸がんのような特徴を持つがん種が良い研究対象候補になると考えています。
サンチェス博士:前臨床研究からは、すべてのがん細胞に何か共通するものがあることが示唆されていますが、それが何なのかはまだ分かっていません。記述もできていませんし、特定できてもいません。ただ、私が知る限り、前臨床レベルで試験されたがん種の中に、カンナビノイドの抗腫瘍作用に本質的に耐性を持つものは見つかっていません。受容体の発現量だけでは説明できない、何か別の要素があるはずなんです。カンナビノイドに耐性を持つがんのサブタイプは見たことがありません。すべてに何か共通点があり、それがカンナビノイドによって殺される感受性につながっているようです。
グズマン博士:私たちを含む多くの研究グループが、おそらく 50〜100種類のがん細胞株で検証してきましたが、効果の強弱はあっても、カンナビノイドは概ね細胞を死滅させたり増殖を抑制したりします。もちろん生体内(in vivo)では、腫瘍微小環境全体があるためずっと複雑です。免疫系、血管新生、細胞外マトリックスの安定性、腫瘍細胞の浸潤・転移能力への影響なども考慮する必要があります。それでも、基本的にほとんどの細胞株が感受性を示すようです。
サンチェス博士:腺がん、軟部組織由来、血液由来など、発生部位はさまざまですが、いずれも似たような反応を示します。
グズマン博士:ただ、これはあくまで前臨床研究の話です。患者で何が起きるかは、基本的にまだほとんど分かっていません。
情報が失われ続ける ― 観察研究への挑戦
サンチェス博士:私が個人的に進めていることの一つに、カンナビスを使用している患者からの臨床情報の収集があります。残念ながら、そうした情報は誰とも共有されないまま失われてしまうからです。そこで、後ろ向き観察研究を始めました。まだ始めたばかりで、私自身がトレーニングを受けた分野ではないので手探りですが、小さなチームを組んで最初の論文を作成したところです。これは高齢者のカンナビス使用に関するもので、コロンビアの医師から集めた 144人分のデータを扱っています。現在査読中ですが、近く掲載されることを願っています。がん患者についても同じことをやりたいと強く思っていて、世界各地の患者がどんな経過をたどっているか知りたいのです。
GZJ:私たちの主催するイベントでも、ごく小さな規模ですが患者さんに話してもらう機会を設けています。副作用が和らいだという声や、余命2ヶ月と言われた方が2年間生き延び、帰国できた例などもありました。
グズマン博士:世界には情報があふれています——何十年分もの膨大な情報が。でもその 99%は失われているんです。世界中には何百万人もの大麻使用者がいます。米国だけでも登録者数 600万人、実際には 1,000万人ほどと推定されていますが、その情報のほとんどが集められることなく消えていく。つまり、私たちが把握できているものは本当に、本当にわずかです。
サンチェス博士:大規模な臨床試験ができるようになるまで、こうした小さな取り組みを積み重ねていくのは、大規模臨床試験と同じ価値はありませんが、一定の価値があることは確かです。
全草抽出物 vs. 単一成分 ― アントラージュ効果とてんかんの科学
グズマン博士:カロラ・ペレスさんが率いるスペイン最大の患者会も、多くの慢性疼痛患者を診てきていて、非常に興味深いデータを持っています。世界各地の他の観察研究とも一致する内容で、患者の健康状態、特に健康関連 QOL は驚くほど良好なことが多いです。
GZJ:彼らが使っているのは医薬品ではなく、大麻由来の製剤ですか?
グズマン博士:はい、大麻由来の製剤です。生産者がいて、自分たちでオイルを作り、品質検査のために検査機関に送っています。重金属や農薬などの安全性、そして THC・CBD・CBG など主要カンナビノイドの含有量を調べるためです。品質の良いオイルを使っています。フルスペクトラム、少なくともブロードスペクトラムのものが多く、THC が豊富なものが中心ですが、CBD が豊富なものも一部あります。THC 優位、CBD 優位、両方のケモタイプがあり、良好な結果を出しています。
GZJ:臨床試験で使う薬剤も承認された医薬品ではなく、いわゆる「大麻製剤」ですよね。将来的に医薬品化を目指しているのですか?
サンチェス博士:医薬品開発だけが正解ではないと思います。サティベックスやエピディオレックスのような医薬品にも役割はありますが、個人的な意見としては、薬剤師が患者ごとに調剤する——スペインで言う「マスターフォーミュラ(調剤処方)」のようなものにも十分な役割があると思うんです。医薬品というより、一貫した品質で製造されるオイルですね。サティベックスは多くの患者に非常によく効きますが、効かない人もいて、それだけでは十分ではありません。他のオイルを使って効果があったと報告する患者もいるんです。だから、あらゆる選択肢に存在意義があると思います。
GZJ:そうした個別調剤製剤は健康保険でカバーされるのですか?
サンチェス博士:現在の法制度では、公的医療制度でカバーされます。
GZJ:乳がんの研究では、どのような品種を選んでいるのですか? 臨床試験ではフルスペクトラムとおっしゃっていましたが。
サンチェス博士:臨床試験ではフルスペクトラムを使いたいと思っていますが、私たちの基礎研究では単離した成分を使っています。THC がどう働くか、CBD がどう働くか、作用機序の理解にこだわっているからです。実際には、単離 THCと、THC 以外の成分も含む全草製剤の抗腫瘍活性を比較した論文も発表しています。乳がんの細胞株・動物モデルを使った前臨床研究で、 さまざまなタイプの乳がんを対象にしましたが、単離成分よりも全草製剤の方がずっとよく効くという結果が出ました。
ただしこれは例外的な取り組みでした。いわゆる「アントラージュ効果」が、がんの文脈でも意味を持つのかを検証したかったのです。その実験では、単離成分より全草製剤の方がよく効くという結果でした。でも普段は純粋な THC、純粋な CBD という、単一のカンナビノイドで研究しています。私たちのモットーは「仕組みを理解すること」だからです。多種多様な成分を含む製剤では、それが非常に難しくなります。
太組一朗教授(以下 太組):てんかん患者において、単離成分とフルスペクトラムを比較した印象はどうですか? 同じような結果になると思いますか?
サンチェス博士:てんかんについては専門ではありませんが、印象としては、単離成分はてんかんやがんそのものにはよく効く一方、生活の質に関わる部分は、他の成分も含めた製剤の方がよく反応するのではないかと思います。
グズマン博士:てんかんを含む様々な神経疾患を扱う多くの神経内科医の間にも、そうした印象があります。カンナビノイドによるてんかん治療の研究は、成人よりも小児を中心に行われてきたこともあり、発達への悪影響を懸念して THC を含まない CBD 単独が好まれる傾向があります。CBDリッチな薬剤がエピディオレックス単独より効果的なケースもわずかながらあると思いますが、一方で現行製剤に含まれるわずかな THC が悪影響を及ぼす、あるいはその懸念があるという報告もあります。フルスペクトラムの CBD を純粋な CBD に置き換えた方が安全という見方もあり、文献には矛盾があります。少なくともスペインでは、神経内科医はエピディオレックスの方を安心して使う傾向にあります。ただサンチェス博士に同意しますが、てんかんに限らず、自閉症など類似疾患を含む小児対象の観察研究は多くあり、それらは「95% CBDのようなフルスペクトラム製剤の方が、100% 純粋なCBDより優れている」ことを示唆しています。
サンチェス博士:これは先ほどのコロンビアの医師の経験とも一致します。彼女はてんかん患者に高 CBD・フルスペクトラム製剤を使っていますが、てんかん自体によく効くだけでなく、患者の睡眠改善にもつながっていて、睡眠が改善すれば発作のリスクも下がります。てんかんそのものに効くのか、それに付随する要素に効くのかは分かりませんが、後者には効果があると言えると思います。
グズマン博士:理論的・概念的な観点から言うと、マウスやラットのてんかんモデルで低用量の THC を使うと良好な治療効果が見られます。低用量では、THC は海馬のグルタミン酸作動性の興奮性シグナルを低下させることができるからです。海馬の過興奮を主に引き起こす苔状線維細胞と顆粒細胞のシナプスを阻害し、低用量 THC であれば、CBD とほぼ同等の抗てんかん効果が得られます。CBD は別のメカニズムで作用しますが、THC を過剰に——非常な高用量を動物に与えると、グルタミン酸作動性シグナルを抑える代わりに GABA 作動性シグナルを抑制してしまい、逆効果になります。けいれんがむしろ増えるのですが、それは体重1kgあたり60〜80 mgという非常に高用量の場合の話です。ですから、高 CBD・低 THCの組み合わせには理論的根拠があると思います。
他の疾患領域への広がり
GZJ:お二人以外にも、がんやてんかん以外の分野を専門とする医療大麻研究者はいるのですか?
グズマン博士:はい、私たちは神経変性疾患についても研究していて、カンナビノイドに神経保護作用があるかを調べています。特にハンチントン病の研究を重ねてきました。実際、数年前にはサティベックスを使った臨床試験も行いました。当時はサティベックスを使うのが容易でしたし、GWファーマも当時は臨床試験への協力に対してよりオープンでした。今は非常に厳しくなっています。それも、今はサティベックスの使用をあまり考えなくなった理由の一つです。彼らは協力の見返りにいろいろ求めるようになりました——以前ほど寛容ではないんです。初期の頃は研究や、研究に基づく臨床試験の支援に対してよりオープンでしたが、今は非常に厳格で、独自の優先事項を持っています。
他にもスペインには、消化器疾患、腸の痛みや炎症を研究している研究者たちもいます。皮膚科も CBD にとって興味深い領域で、創傷治癒や乾癬など、いくつかの適応症があります。
GZJ:サンチェス博士のチームには、博士課程の学生は何人いますか? 研究チームの規模は?
サンチェス博士:私たちのチームには博士課程の学生が 5〜6人います。それとは別に、 「スペインカンナビノイド研究学会」には約200人の会員がいて、さまざまなテーマに取り組んでいます。私が特に注目している研究者の一人は、新生児の低酸素性虚血性脳症に関する臨床試験を行っています。そうした状態で生まれた赤ちゃんに CBD を使う研究です。とても興味深い動物モデルで実証していて、最初はマウスから始め、その後ブタに移行し、今はブタからヒトへと進み、この赤ちゃんたちに対して CBD を低体温療法と組み合わせて使う臨床試験をスペインで行っています。1年ほどこのテーマに取り組み、ついに臨床試験にこぎつけたんです。とても有望な分野です。ほかにも依存症から神経変性疾患まで、主に中枢神経系関連ですが、代謝性疾患を扱う研究者もいます。
グズマン博士:ええ、代謝性疾患もあります。
サンチェス博士:関心をお持ちの疾患を挙げれば、たいていスペイン国内のどこかに研究グループがあると思います。ただし、あくまで前臨床レベルの話で、臨床研究となるとそう多くはありません。
グズマン博士:「僕たちはマウスを治してるんだ」と言うんですよ(笑)。マウスにとっては朗報ですが、人間にとってはまだ先が遠い話です。正直なところ、一部の患者は少なくとも QOL の面で助けられているとは思いますが、マウスにとっての朗報が、人間にとってはまだ「クエスチョンマーク」というのが現状です。
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Part II では、2025年11月に制定されたスペインの医療大麻制度の実情と課題について伺います。
文責:三木直子(国際基督教大学教養学部語学科卒。翻訳家。2011年に『マリファナはなぜ非合法なのか?』の翻訳を手がけて以来医療大麻に関する啓蒙活動を始め、海外の医療大麻に関する取材と情報発信を続けている。GREEN ZONE JAPAN 共同創設者、プログラム・ディレクター。)

文責:三木直子(国際基督教大学教養学部語学科卒。翻訳家。2011年に『マリファナはなぜ非合法なのか?』の翻訳を手がけて以来医療大麻に関する啓蒙活動を始め、海外の医療大麻に関する取材と情報発信を続けている。GREEN ZONE JAPAN 共同創設者、プログラム・ディレクター。)
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