グズマン・サンチェス両博士に聞く Part II:スペイン・欧州の法規制と日本への示唆

2026.09.25 | 大麻・CBDの科学 海外動向 | by greenzonejapan
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グズマン・サンチェス両博士に聞く Part II:スペイン・欧州の法規制と日本への示唆
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厚労省特別研究班・令和8年度の調査の一環として、聖マリアンナ医科大学教授で日本臨床カンナビノイド学会の理事長である太組一朗先生とともに視察に訪れたスペイン。マドリードにあるコンプルテンセ大学を拠点に、30年にわたってカンナビノイドの研究を続けてきた高名な医療大麻研究者、マニュエル・グズマン(Manuel Guzmán)博士とクリスティーナ・サンチェス(Cristina Sánchez)博士に、大学の研究室でお話を伺いました。

 

Part I ではお二人の研究について伺いましたが、Part II では、2025年に制定されたスペインの医療大麻制度の実情と課題、また医薬品としての大麻製剤と未承認製剤としての “医療大麻製品” に関するお二人のお考えを伺います。

法律は変わったが、現実は変わらない

GZJ:昨年スペインの医療大麻に関する法律が変わりましたね。

グズマン博士:ええ、法律は変わりましたが、現実は何も変わっていません。スペインの医療大麻規制の枠組みは非常に狭く、厳格で制限的です。承認された適応症は、既存の医薬品でカバーされているものばかりです。たとえば多発性硬化症に伴う痙縮——これはサティベックスに効果があるというエビデンスがあります。小児てんかんのけいれんに対する標準化大麻調剤の処方も承認されましたが、これもすでにエピディオレックスが承認済み。抗がん剤による吐き気・嘔吐も適応症ですが、セトロンなど他の制吐薬があるため、大麻製剤を使う例はごくわずかです。

最後に、難治性慢性疼痛への医療大麻製剤の使用が承認されたことは望みが持てます。慢性疼痛に対応する大麻由来医薬品は存在しませんからね。ただし「難治性」の定義が厳しく、オピオイドを含む第一・第二・第三選択治療をすべて試した上でなければアクセスできません。これでは意味がありません。患者はそんなに待ちませんよ。最初から水面下でカンナビスを試すでしょう。

つまり、長年の闘いの末にようやく規制ができはしましたが、結局はちょっと残念な結果でした。適応症が非常に限定的だからです。神経内科医たちはすでに「サティベックスがあるなら、痙縮治療に他の製剤を使うつもりはない」と公言しています。サティベックスは社会保障でカバーされていますから、それを使い続けるでしょう。小児を診る新生児科医・神経内科医も同様で、けいれんにはエピディオレックスがあるので、わざわざ他を試そうとは思わない。結局、法律はできても、適応症のせいで実質的には「空っぽ」なのです。

太組一朗教授(以下 太組):医師はサティベックスやエピディオレックスを適応外使用できないのですか?

グズマン博士:できます。臨床試験で有効性が見られた薬剤は、試験終了後もオープンラベルで投与を継続できる場合があります。適応外使用も一部の医師は行っているでしょう。たとえば多発性硬化症の神経障害性疼痛です。サティベックスは本来痙縮にしか処方できませんが、神経障害性疼痛がある患者にも使われることがあります。同じ病名(MS)だからです。初期の臨床試験データもあり、安全性への信頼から医師も使いやすい。ただ実際の処方は厳格に痙縮に限定されているので、「裏で」行っているというのが実情でしょう。また、これはあくまで同じ疾患の範囲内でのことで、他の神経変性疾患には使われません。

サンチェス博士:ただ、実際にそれを行っている医師はこの国では本当にごくわずかだと思います。問題の一つは、医師への教育が全く行われていないこと。私たちはこの国最大級の大学で教えていますが、エンドカンナビノイド・システムはカリキュラムに含まれていません。医学生たちは、カンナビノイドや大麻について何も知らないまま、あるいは「乱用薬物」だと思ったまま医師になります。誰も教育していない。法律が変わった今、誰が医師を教育するのかが大きな課題です。製薬企業が行うのか? 本来は大学が行うべきなのに、私たちはまだそれをできていません。

GZJ:生化学の教科書にもエンドカンナビノイドシステムの記載はまだありませんね。

グズマン博士:より専門的な神経化学の教科書には、エンドカンナビノイドシステムの章が入り始めていますが、非常に専門的な内容です。一般の医学教育では、学生が「大麻」という言葉を耳にするのはカリキュラム全体でせいぜい2〜3回、それも「いかに有害か」という文脈です。私たちは昨年、医療用カンナビス研究の修士課程を新設し、受講生もいますが、まだまだ「広大な砂漠の中の一粒の砂」のようなものです。

サンチェス博士:「スペインカンナビノイド研究学会」で医師 60人にアンケートを取り、新しい医療大麻規制について知っているか尋ねたところ、処方方法や製品について何も知らないという結果でした。法律は非常に制限的、医師への情報提供はほぼ皆無。あまり明るい状況ではありません。

嗜好用は社会に浸透、でも医療用は複雑

GZJ:日本から見ると、ドイツとスペインは地理的には近いのに、状況はかなり違うんですね。

サンチェス博士:「スペインは進んでいる」という誤解がありますが、それは嗜好用大麻が社会的に広く受け入れられているからです。街を歩けばどこでも大麻の匂いがします。社会的には問題視されていません。でも医療用となると話は複雑になります。実はスペインは、医療大麻を制度化したヨーロッパの中でも最後発の国の一つで、他国よりずっと制限的な制度です。

グズマン博士:とてもややこしい状況です。嗜好用大麻の使用は処罰対象で、路上で吸うことも運搬することもできませんが、自宅などプライベートな環境であれば OK です。スペイン人口の約 10%、およそ 500万人が嗜好用大麻を使用していると推定されています。大麻はかなり受け入れられていて、路上で大量に持ち歩いて警察に見つかるような場合を除けば、プライベートに使う分には大きな問題にはなりません。カンナビス・ソーシャルクラブという、屋内で私的に使用できる場所もあります。

ただ、私的使用は非犯罪化されていますが、公共の場での使用は非犯罪化されていません。自宅で、少量を、窓の外から見えないように——つまり子どもなどの目に触れないように——使う分には問題ないんですが。

GZJ:「麻薬戦争」のようなものはあるのですか? 米国のように、多くの人が逮捕されるような。

グズマン博士:いいえ、そういうことはありません。おそらくモロッコがかつてスペインの植民地だったことも影響し、アフリカから大麻が多く流入してきた歴史があり、社会的にかなり受け入れられているのです。

GZJ:大麻に対する否定的なスティグマもなく、社会問題にもなっていないわけですね。医療目的での使用についての認知度はどうですか?

サンチェス博士:政府の調査では、9割以上の国民が医療用大麻を支持しているという結果が出ています。

グズマン博士:嗜好用は賛否がほぼ半々ですが、医療用は 95%が支持しています。

GZJ:それなのに、教育は行われていない。

グズマン博士:ええ、なぜなのかは分かりません。陰謀論めいたことは言いたくありませんが、物事を前に進めさせない「見えない力」があるように感じます。社会には合法化の下地があり、多くの嗜好用ユーザーは使い方を知っていますが、それは当然、医療的に正しい使い方ではありません。多くの人が「グレーゾーン」——嗜好用として使いながら、健康上の問題があれば医療目的でも使う、という状態にいます。実際には同じ製剤を、医療的な管理下に置かれないまま使っているのです。

それでも、このグレーゾーンのおかげで少なくとも一部の患者はカンナビス製剤を入手し、インターネットで情報を得ることができています。私たちのところにも多くの人が使い方を尋ねる電話をかけてきます。スペインには患者団体もあり、最大のものはマドリードの「ドス・エモシオネス(Dos Emociones)」で、これまでに約 2,000人の患者をフォローしてきました。これも興味深い取り組みです。

でも、公式での大規模な医療利用・臨床利用となると、状況は複雑です。承認済み医薬品との競合があるからです。スペイン医薬品庁が承認した医薬品がありますが、産業界がカンナビス製剤に自社の治療法を邪魔されたくないのか、あるいはプロセスを管理したいのか——理由は分かりませんが、これほどの社会的受容があるにもかかわらず、規制の枠組みは最終的に非常に厳格なものになりました。

私たちは 10年間、この問題に取り組み、多くの政党や行政関係者と面談し、国会に働きかけ、最終的に医療大麻規制を策定する委員会を国会内に作ることに成功し、昨年10月にこの規制が承認されました。しかし最初の草案と最終版を比べると、当初は多くの可能性があったのに、最終的にはわずか4つの適応症に絞られてしまいました。しかもアクセス条件が非常に厳格——これも問題です。規制制度が成功するための柱の一つは「アクセスのしやすさ」だと私たちは考えています。官僚的・行政的な障壁が多いと、誰も利用しようとしません。

結局、患者は闇市場・グレーマーケットに留まり続けることになる。多くの立場からの大変な努力の末に、残念な結果に終わってしまいました。それでも、制度が「ある」ということ自体には意味があります。医師や産業界からの後押しがあれば、いずれ実を結ぶかもしれません。新しい医薬品、新しい適応症、新しい製剤が生まれるかもしれない。でも今の状況はかなり停滞しています。

数週間後には国内最大級の医薬品展示会があり、医療大麻専門のセクションも設けられますが、産業界と議論しても、なかなか前に進まないのが現状です。一方で、ヨーロッパ、特にドイツの状況は変わりつつあります。ドイツは「ヨーロッパのエンジン」と見なされていて、10年前に政治家に働きかけたときは皆「ドイツが医療大麻を制度化したら、我々もやる」と言っていました。ドイツは 2017年に医療大麻を制度化しましたが、私たちは 2025年6月になってようやくそれを実施したわけです。そしてドイツはすでに嗜好用まで承認しています。結局、政府の言葉は私たちを黙らせるための「口実」だったのかもしれません。ドイツは何マイルも先に進んだのに、私たちが進めたのはまだ最初の1センチであるような気がします。非常にもどかしい。

文化の違い ― アルコールと大麻

GZJ:興味深いですね。日本には大麻への強いスティグマがあり、社会的受容が全くありません。良いことだと思う人がそもそもいない、という難しさがあります。

サンチェス博士:それは文化とも関係していると思います。私たちは地中海文化圏で、アルコールが社会生活の一部になっています。外出すればテーブルには常にアルコール飲料がある。私たちの文化では、精神に作用する物質は「自分たちの一部」なんです。ランチの席にワインが3本あっても誰も変だとは思いません。日本の文化には詳しくありませんが、見る限りずっと厳格ですよね。

GZJ:私たちの文化もお酒は好きですよ(笑)。

サンチェス博士:でも形が違うと思んです。間違っていたら訂正してください——日本だと「パーティーの時に飲む」というイメージがありますが、こちらでは、たとえばランチの席で皆が飲んでいても驚かれません。仕事中でもワインを飲むのは普通です。

GZJ:コーヒーのような感覚ですね。

サンチェス博士:そうですね。ただし誤解しないでほしいのですが、一日中酔っ払っているわけではありませんよ、残念ながら(笑)。

太組:文化的背景の違いを説明するデータとして、日本人の生涯使用率はわずか 1.4 % です。イギリスでは 40%を超えています。日本の人々はカンナビスにほとんど触れていないのです。1.4 %と聞いたとき、私は逆にそんなに高いのかと驚いたくらいです。私たちはそれ以上に「未接触」だと思っていたので。

おそらく、日本で大麻に対してオープンな数少ない医師グループがいるのが私の研究班でしょう。スペインと同じように、ほとんどの日本人医師は大麻が何なのか知りません。私自身、医学部で脳神経外科の講義は持っていますが、大麻に関する講義は持っていません。いつかは、医師への教育を始めなければなりません。大麻取締法は3年前に、医療用大麻の利用を可能にする趣旨で改正されました。それ以前は、医療現場であっても厳格に使用が禁止されていましたから。でも状況は日本もほぼ同じ——法律は変わっても、現実は変わっていません。

GZJ:改正はとても保守的な内容でした。最大の理由の一つは、規制当局が大麻使用者を引き続き逮捕したいと考えていることです。CBD 製品や THC 含有製品を人々に使わせたくない。非常に保守的です。一方スペインでは警察が積極的に逮捕したがっているわけではないですよね。それでも制度改革は保守的だというのが興味深いです。

処方できるのは専門医だけ ― かかりつけ医の除外という壁

グズマン博士:スペインの新しい法制度では、かかりつけ医は除外され、専門医しか処方できません。イギリスと同じ構造ですね。これは大きな問題だと思います。かかりつけ医は専門医よりずっと柔軟です。専門医、特に大病院の専門医は標準プロトコルや厳格な規制に縛られがちです。でも実際の患者と最初に接するのはかかりつけ医で、彼らの方が「生活の質」という、多くの人にとって捉えどころのないと思われがちな側面に対して柔軟です。本当は、QOL は捉えどころがないどころか、患者に大きく影響するものです。QOL は、臨床試験で簡単に測定できる主要評価項目ではなく、患者の言葉に基づく主観的なものなので、専門医にとっては掴みにくい。もちろん例外はありますが、私が思うにこれが実情です。そしてかかりつけ医は、今回の規制から外されてしまいました。

太組:大麻以外に、専門医しか処方できない薬はありますか?

グズマン博士:かかりつけ医はオピオイド——モルヒネ系の強オピオイドでさえ処方できます。でもカンナビスは処方できません。

太組:カンナビスだけが特別、と。

グズマン博士:他にもあるかもしれませんが、たとえばがんの化学療法などは非常に専門性が高い分野です。

サンチェス博士:抗てんかん薬はどうですか?

太組:処方できるかもしれませんが、専門医に任せたがる傾向はあります。バルプロ酸のような一般的な薬なら、かかりつけ医も処方できると思います。

グズマン博士:一般医がその責任を負いたがらないという面はありますが、実際には他の多くの制度でも同じことが起きています。スペインのような社会保障制度——救急でない限り、患者はまず必ずかかりつけ医の診察を受ける制度——では、かかりつけ医が処方できることが不可欠だと思います。患者は待ちたがりません。モルヒネが効かないなら、大麻を試したい。大麻は街に出れば手に入るので、痛みがあれば闇市場に行ってでも試してしまう。標準治療の第一選択が効くかどうかにかかわらず、最初から試すのです。モルヒネやフェンタニルを最後まで試すまで大麻を試さないなんてことを望む患者はいません。結局、規制はあっても、人々は闇市場に留まり続けているのが現状です。将来変わるかもしれませんが。

日本のてんかん治療とTHC濃度規制

太組:私の研究班では、てんかん患者に約 500 ppm の THC を含む CBD製品を投与しています。臨床試験ではありませんが、このプログラムには約 60人の患者が参加しています。日本の規制において、THC の残留許容閾値は 10 ppmで、これを超える THC が含まれる製剤は麻薬とみなされます。10 ppmというのは馬鹿げて低い数字です—— 0.001%ですから。それでも私の研究班は、患者向けにこうした処方ができる数少ない研究グループの一つです。500 ppm だろうが 3,000 ppm だろうが 5,000 ppmだろうが、私たちにとって問題ではないのですが、問題は、何がベストなのかまだ誰にも分かっていないことです。私たちが今日ここスペインに来ている理由の一つも、ある企業の製剤が一定レベルの CBD と一定レベルの THC を含んでいるからです。

グズマン博士:ここでの THC の上限は 0.2 %です。

GZJ:それがヘンプの法的定義ですね。日本では、2024年の法改正で、THC の閾値が非常に厳格になりました。改正前は多くの CBD 製品事業者がいて、業界はかなり活況でした。私たちもそうした業者を支援し、CBD製品を歓迎する空気がありました。でも改正後、多くの事業者が撤退・消滅してしまいました。法改正で市場が開き、米国からのサプリメントやオイル、Charlotte’s Web のような製品が入ってくると期待していたのですが。

太組:日本の患者にとって現実的な道は 10 ppm しかなく、つまり医薬品グレードの製品を使うしかありません。だから医薬品を開発する必要があります。てんかんこそが唯一の突破口です。医薬品グレードの CBD や THC 製品を開発・確立できれば、そこから適応症を広げていける。でも、この立ち位置からすると道のりは非常に長いです。

GZJ:他の多くの国でもそうであったように、てんかんが唯一のチャンスなんです。

太組:2年ほど前、日本政府と話をした際、「法律を変えるなら、大麻を使う必要のある患者を救わなければならない」と伝えました。それでてんかん患者は使用できるようになり、私たちも処方できるようになりました。でも、てんかん患者だけが大麻を必要としているわけではありません。だから政府に「適応症を慢性疼痛など他の症状にも広げてはどうか」と提案したのですが、返ってきたのは「あなたはてんかんの専門医であって、疼痛の専門医ではない」という答えでした。「いや、疼痛の専門医でもあります」と言っても、認めてもらえませんでした。そういうわけで、てんかん患者から始まったのです。てんかん患者だけがゴールというわけではありませんが、そこが出発点でした。

グズマン博士:私自身、慢性疼痛患者のための啓発活動を行っています。THC を除外するのは理に適わないと思います。疼痛の管理という分野では THC が中心的な成分ですからね。

GZJ:日本政府は懐疑的で、「偽の患者」を疑っています。痛みは主観的なものなので、誰でも「痛い」と言えてしまうと。

サンチェス博士:それを許したくないわけですね。

* * * * *

スペインと日本の医療大麻規制の実情にはいくつもの共通点があること、臨床試験の重要性とたちはばかる資金調達の壁、承認医薬品と未承認大麻製剤の両立の可能性など、大変有意義な情報交換となりました。2017年に Green Zone Japan を創設して以来、活動のなかで幾度となく目にし、たくさんのインスピレーションをいただいてきた著名な研究者であるお二人は、断片的な情報から想像していたのを上回る気さくさで私たちを迎えてくださいました。今後もお二人の研究からは目が離せません。貴重な機会をありがとうございました。

文責:三木直子(国際基督教大学教養学部語学科卒。翻訳家。2011年に『マリファナはなぜ非合法なのか?』の翻訳を手がけて以来医療大麻に関する啓蒙活動を始め、海外の医療大麻に関する取材と情報発信を続けている。GREEN ZONE JAPAN 共同創設者、プログラム・ディレクター。)

 

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