サイケデリクスは依存症治療薬になるか?

2026.10.15 | サイケデリックス 大麻・CBDの科学 | by greenzonejapan
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サイケデリクスは依存症治療薬になるか?
2026.10.15 | サイケデリックス 大麻・CBDの科学 | by greenzonejapan
インフォグラフィックス

近年、うつ病や治療抵抗性うつ病の治療薬として大きな注目を集めているサイケデリックス(幻覚剤)。しかし、その応用範囲はうつ病だけにとどまりません。アルコール、大麻、コカイン、メタンフェタミン、ニコチン、オピオイドなど、さまざまな物質使用障害(SUD: Substance Use Disorder)に対する治療可能性も、世界中で研究が進められています。

2026年にBritish Journal of Pharmacologyに掲載された今回のスコーピングレビューは、こうしたサイケデリックスによる物質使用障害治療の研究動向を整理するとともに、脳内の報酬系に関わる「側坐核(nucleus accumbens, NAc)」でドーパミンにどのような影響が生じるのかという神経生物学的な視点からも検証しています(Wittenkeller et al., 2026)。

研究の背景

サイケデリックスが意識状態や認知処理を変化させ、長期間にわたる効果をもたらすことは、うつ病治療の文脈で広く知られるようになりました。この特性は、依存症治療においても重要な意味を持つ可能性があります。物質使用障害は、脳の報酬系、特に側坐核におけるドーパミン系の機能異常と密接に関連していることが知られています。もしサイケデリックスがこの報酬系に働きかけることができるなら、既存の依存症治療とは異なるアプローチとしての可能性が期待されます。

しかし、サイケデリックスと依存症治療に関する研究がどこまで進んでいるのか、また、その作用がドーパミン系にどう関わっているのかについては、体系的に整理された情報が乏しいのが現状でした。本研究はこのギャップを埋めることを目的としています。

研究方法

研究チームは、PRISMA-ScR(システマティックレビューおよびメタ分析の報告に関する優先事項の拡張版:スコーピングレビュー)のガイドラインに準拠し、2つの異なるアプローチでスコーピングレビューを実施しました。

第一のアプローチでは、ClinicalTrials.govに登録されている、物質使用障害治療を目的としたサイケデリックスを用いた進行中の臨床試験をスクリーニングしました。第二のアプローチでは、PubMed、SCOPUS、Google Scholarを用いて、ラットにおけるサイケデリックス投与後の側坐核細胞外ドーパミン濃度の変化を測定した、in vivoマイクロダイアリシス研究を検索しました。

結果

臨床試験のスクリーニングの結果、34件の独自の臨床試験が特定されました。これらの試験は、アルコール使用障害、大麻使用障害、コカイン使用障害、メタンフェタミン使用障害、ニコチン使用障害、オピオイド使用障害を対象としており、その多くはプラセボ対照群を欠いたオープンラベル試験でした。最も多く研究対象とされていた物質使用障害は、アルコール使用障害(AUD)でした。

一方、神経生物学的側面については、厳格な除外基準を適用した結果、サイロシビンまたはMDMA(3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン)の全身投与後に側坐核の細胞外ドーパミン濃度を測定した論文は、わずか4件しか見つかりませんでした。これらの研究から、高用量のサイロシビン投与に特有の現象として、ドーパミン濃度の持続的で穏やかな上昇が観察されたことが報告されています。

考察・意義

この結果は、いくつかの重要な示唆を含んでいます。まず、サイケデリックスを用いた物質使用障害治療の臨床研究は、着実に広がりを見せているものの、その多くがプラセボ対照を欠いたオープンラベル試験であるという点は、エビデンスの質という観点から重要な限界です。今後、より厳密なランダム化比較試験による検証が求められます。

また、アルコール使用障害が最も多く研究対象となっている一方で、他の物質使用障害、特にニコチンやオピオイドに関する研究は相対的に少なく、研究の空白領域が存在することも明らかになりました。

神経生物学的な知見については、高用量のサイロシビンが側坐核におけるドーパミン濃度を持続的かつ穏やかに上昇させるという発見が特に注目されます。研究者らは、これはサイケデリックスの既知の治療機序(セロトニン受容体を介した神経可塑性の促進や、認知的柔軟性の向上など)に加えて、サイロシビンが「トニックドーパミンレベル」、つまり報酬系の基礎的な活動水準を回復させることで、ドーパミン系のホメオスタシス(恒常性)を支える可能性があると考察しています。

物質使用障害では、慢性的な薬物使用によって報酬系のドーパミン応答が鈍化したり、逆に過敏になったりする機能異常が生じることが知られています。もしサイロシビンがこの乱れたバランスを正常化する方向に働くのであれば、依存症治療における新たな作用機序の候補として注目に値します。ただし、この知見はわずか4件の動物実験に基づくものであり、ヒトでの検証や、他のサイケデリックスとの比較を含めた、さらなる研究が必要です。

まとめ

本レビューは、サイケデリックスが物質使用障害治療の新たな選択肢となる可能性を示す一方で、現時点でのエビデンスにはまだ多くの限界があることを浮き彫りにしました。34件の臨床試験が進行中であるという事実は、この分野への関心の高まりを示していますが、プラセボ対照を伴う質の高い試験の蓄積が今後の課題です。

また、高用量サイロシビンが側坐核のドーパミン恒常性に働きかける可能性という知見は、依存症の神経生物学的理解を深める重要な一歩ですが、現時点では動物実験レベルの限られた知見に基づくものです。この分野における今後の研究の進展に、引き続き注目していく必要があります。

本記事はあくまで学術研究の紹介を目的とした情報提供であり、医学的なアドバイスを意図したものではありません。物質使用障害の治療に関しては、必ず専門の医療機関にご相談ください。

参考文献

Wittenkeller L, Gudelsky G, Winhusen TJ, Amato D. Psychedelics as pharmacotherapeutics for substance use disorders: A scoping review on clinical trials and perspectives on underlying neurobiology. British Journal of Pharmacology. 2026. DOI: 10.1111/bph.70181 / PubMed

正高佑志

執筆者: 正高佑志 Yuji Masataka(医師)
経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。
研究分野:臨床カンナビノイド医学
活動: 2017年に一般社団法人Green Zone Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。令和6年度厚生労働特別研究班(カンナビノイド医薬品と製品の薬事監視)分担研究者。
書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン)
所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員)
更新日:2026年9月1日

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