
大麻を合法化すると、若者の使用率が急増するのではないか——これは各国で合法化議論が起こる際に必ず提起される懸念です。2024年3月27日、ドイツは「消費者大麻法(KCanG)」を施行し、成人による大麻の個人使用と少量所持を部分的に合法化しました。その1年後、実際に若者の大麻使用に何が起きたのか。ドイツ連邦公衆衛生研究所(BIÖG)の研究チームが、2008年から2025年までの長期データを用いてこの問いに答えました。
結論を先に言えば、合法化1年後の時点で、若者の大麻使用率に短期的な急増を示す証拠は見つかりませんでした。この記事では、その調査の詳細と数値を紹介します。
研究の背景:合法化は本当に使用を増やすのか
大麻の頻回・長期使用は、特に若年層において呼吸器疾患、心血管疾患、消化器症状、依存症、精神病、気分障害・不安障害、自殺関連行動など、さまざまな健康リスクと関連することが知られています。そのため、若者における大麻使用の実態を把握することは公衆衛生上、非常に重要な課題です。
カナダやアメリカの多くの州ではすでに大麻の嗜好目的での合法化が行われており、これらの国々の先行研究では、成人(特に若年成人)における使用の頻度・prevalenceの増加が報告されています。一方で、未成年(青少年)に対する影響については一貫した結果が得られていませんでした。また、合法化後には急性中毒や精神病などの大麻関連の緊急受診が増加したという報告もあります。
こうした国際的な知見を踏まえ、ドイツにおいても部分合法化が若者の使用行動にどのような影響を与えるのかを検証する必要がありました。本研究は、2025年3月号のJournal of Health Monitoringに掲載された前回の分析(2008年〜2023年、つまり合法化前年までのデータ)を、合法化後1年目となる2025年のデータまで拡張したものです。
研究方法:7,001人を対象とした電話調査
この研究は「薬物親和性研究(Drug Affinity Study)」という、ドイツで定期的に実施されている代表性のある調査に基づいています。2025年調査では、2025年4月22日から7月3日にかけて、12歳から25歳までの合計7,001人を対象にコンピュータ支援電話調査(CATI)が行われました。調査手法は2023年の前回調査と実質的に同一で、固定電話とモバイル電話のサンプルを60%対40%の比率で組み合わせるデュアルフレーム方式が採用されています。応答率は固定電話サンプルで35.5%、モバイルサンプルで27.4%でした。
2025年調査には、12〜17歳の青少年3,031人と18〜25歳の若年成人3,970人が参加しました(そのうち各1名は大麻使用に関する情報を提供しなかったため分析から除外)。
研究チームは2008年から2025年までに実施された12件の代表的調査データを統合し、トレンド分析を行いました。この期間全体で、女性青少年15,870人、男性青少年16,624人、若年女性18,705人、若年男性22,559人分の有効な大麻使用データが得られており、データ不足で除外されたのはわずか104人でした。分析には、調査年を連続変数として扱う長期トレンドのロジスティック回帰分析と、調査年を分類変数として扱い2025年を基準年とした直接比較分析の両方が用いられています。
結果:若年男性のみ有意な増加、しかしそれは新しい現象ではない
2025年時点での過去12ヶ月間の大麻使用率(12ヶ月prevalence)は、女性青少年で4.6%、男性青少年で7.2%でした。若年成人ではこの数値がさらに高く、若年女性で18.8%、若年男性で31.6%となっています。
最も重要な問いである「2023年(合法化前年)と2025年(合法化1年後)の比較」では、女性青少年、男性青少年、若年女性のいずれにおいても統計的に有意な変化は見られませんでした。2025年の使用率はこれらの3グループでいずれも2023年よりわずかに低い数値でしたが、その差は統計的に有意ではありませんでした。
一方、若年男性においてのみ、2023年から2025年にかけて統計的に有意な増加が確認されました。しかし研究チームは、この増加が合法化による新しい現象ではなく、2008年から続く長期的な上昇トレンドの延長線上にあるものだと結論づけています。
2025年を基準とした過去との比較分析では、女性青少年で最後に有意差があったのは2011年(2.8%)、男性青少年では2019年(10.8%)、若年女性では2016年(11.4%)でした。つまり、これらのグループについては、それ以降現在まで大きな変化がない状態が続いているということになります。
2008年から2025年にかけての長期トレンドを見ると、青少年(男女とも)ではやや逆U字型のパターンが観察されました。使用率は一度上昇した後に減少しており、この傾向は男性青少年でより顕著でした。若年女性では2010年代後半に急激な上昇が見られた後、大きく落ち着いています。対照的に、若年男性のトレンドは2008年から2025年まで一貫して上昇を続けていました。
なお、ドイツの疫学的依存症調査(ESA)による別の調査でも同様の傾向が報告されています。2012年から2021年にかけて18〜59歳人口における大麻使用の増加が観察され、法制度の変更にかかわらず今後もさらなる増加が予測されていました。実際、合法化直後に実施された2024年のESA調査でも予測通りの増加が見られましたが、2021年との比較では統計的に有意ではありませんでした。
原論文の詳細はPubMedで確認できます。
考察:合法化の「短期的効果」は見られなかった
今回の結果は、KCanGによる法制度の変更が、少なくとも施行後1年という短期間においては、若者の大麻使用行動に明確な影響を与えていないことを示しています。これはドイツ国内の他のデータソースを用いた最初の法律評価報告書の結論とも一致しています。
この結果は、カナダやアメリカの一部の州における先行研究の知見とは対照的です。これらの国々では、成人における大麻使用の有意な増加が報告されています。しかし研究チームは重要な注意点を指摘しています。それらの研究の多くは、合法化から相当な時間が経過した後に実施されたものだということです。つまり、ドイツにおける今回の結果は、あくまで「合法化直後」の短期的なスナップショットに過ぎず、より長期的な影響については、まだ結論を出せる段階にはないということです。
実際、研究チーム自身も、大麻栽培協会(カンナビス・ソーシャルクラブに相当する制度)がドイツ国内でまだ設立過程にあることや、個人による大麻栽培が今後さらに増加していく可能性を挙げ、今回の結果が最終的な結論ではないことを強調しています。今後もより長い時間軸でのモニタリングが必要とされています。
まとめ:予防プログラムの重要性は変わらない
今回の研究が示したのは、「合法化すれば若者の使用が即座に急増する」という単純な図式が、少なくともドイツの直近1年のデータでは成立しなかったという事実です。ただし、これは合法化が将来にわたって全く影響を及ぼさないことを意味するわけではありません。研究チームは、今後の栽培関連制度の定着や個人栽培の広がりなど、これから顕在化しうる要因にも注意を払う必要があると指摘しています。
また、若年男性における長期的な使用率の上昇トレンドは、合法化とは無関係にすでに2008年から続いているものであり、この背景要因についても引き続き検討が必要です。ドイツでは、青少年・若年成人を対象とした大麻に関する健康リスクの啓発や、責任ある使用を促す予防プログラムが、近年強化・継続的に展開されています。合法化の有無にかかわらず、こうした予防的アプローチの重要性は変わらないと言えるでしょう。
本記事は学術研究の内容を紹介するものであり、医学的アドバイスを提供するものではありません。大麻の使用に関する判断は、必ず医療専門家にご相談ください。
参考文献
Orth B, Eckhardt S, Nitzsche A. “One year after partial legalisation in Germany: Trends in cannabis use among young people between 2008 and 2025.” Journal of Health Monitoring. 2026. DOI: 10.25646/14268
PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42459991/
経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。
研究分野:臨床カンナビノイド医学
活動: 2017年に一般社団法人Green Zone Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。令和6年度厚生労働特別研究班(カンナビノイド医薬品と製品の薬事監視)分担研究者。
書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン)
所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員)
更新日:2026年9月2日
コメントを残す