
米国カリフォルニア州で実施された大規模調査により、10代の若者たちが大麻を、紙巻きタバコ、ニコチン電子タバコ、そしてアルコールよりも「害が少ない」と認識していることが明らかになりました。しかもこの傾向は、学年が上がるにつれて強まっていくというのです。
この研究結果は、Drug and Alcohol Dependence誌に2026年に掲載された論文「Adolescents view cannabis as less harmful than cigarettes, nicotine vapes, and alcohol」で報告されました(Agarwal et al., 2026)。
研究の背景
近年、米国では多くの州で大麻の合法化が進み、若者を取り巻く大麻に関する情報環境も大きく変化しました。一方でニコチン電子タバコ(ベイプ)の急速な普及や、タバコ対策の継続的な啓発活動もあり、物質ごとの「有害性認識」がどのように形成され、どう変化しているのかを正確に把握することは、効果的な予防教育を設計する上で欠かせません。本研究は、この点に着目し、大麻・タバコ・電子タバコ・アルコールという4種類の物質について、思春期の若者がどのような有害性認識を持っているかを比較検討しました。
研究方法
研究チームは2つの大規模調査データを分析しました。1つ目は2019〜2020年に実施されたCalifornia Student Tobacco Survey(カリフォルニア州学生タバコ調査)で、参加者は160,222人の10代の若者です。2つ目は2024年のCalifornia Youth Tobacco Survey(カリフォルニア州青少年タバコ調査)で、参加者は14,922人でした。
調査では、大麻・紙巻きタバコ・ニコチン電子タバコ・アルコールそれぞれについて、「毎日使用すること」と「時々使用すること」に対する有害性の認識を尋ねました。さらに、回答者自身の使用経験の有無、使用頻度、友人の使用割合、学年(年齢)といった要因ごとに、有害性認識がどう変化するかを記述統計によって分析しています。
結果
2019〜2020年の調査結果によると、「毎日使用すること」を有害だと認識していた割合が最も低かったのは大麻で、わずか66.8%でした。これに対してアルコールは77.7%、ニコチン電子タバコは85.3%、紙巻きタバコは92.6%と、いずれも大麻より高い割合で有害性が認識されていました。これらの差はすべて統計的に有意です(p<0.0001)。
また、どの物質についても「時々の使用」に対する有害性認識は「毎日の使用」に対する認識より低く、さらに、その物質を実際に使用した経験がある若者は、使用経験がない若者と比べて有害性認識が低いという傾向が一貫して見られました。
特に注目すべきは年齢(学年)による変化のパターンです。紙巻きタバコ、電子タバコ、アルコールについては、学年が上がるにつれて有害性認識が変わらないか、むしろ上昇する傾向が見られました。ところが大麻については、学年が上がるほど有害性認識が低下するという、他の3物質とは正反対の傾向が確認されたのです。
さらに、友人の使用状況との関連も明らかになりました。いずれの物質についても、自分の友人のうちその物質を使用している割合が高いほど、本人の有害性認識は低下する傾向が見られました。これは大麻に限らず、タバコ、電子タバコ、アルコールいずれにも共通する傾向です。
2024年の調査データでも、これらと同様のパターンが確認されており、この現象が一時的なものではなく、継続的な傾向である可能性を示しています。
考察・意義
この研究が示す最も重要な点は、思春期の若者にとって大麻が「タバコや電子タバコ、アルコールよりも安全な選択肢」として認識されつつあるという事実です。これは大麻の合法化や医療利用の広がり、大麻に対する社会的スティグマの低下など、複合的な社会的背景を反映している可能性があります。
また、友人の使用状況が有害性認識に影響を与えるという結果は、ピア(仲間)の影響力の大きさを改めて示すものです。これは大麻に限った現象ではなく、物質使用全般に共通する社会心理的メカニズムと考えられます。
ただし、本研究はあくまで記述統計による横断的な分析であり、有害性認識の低下と実際の大麻使用増加との間の因果関係を直接証明するものではありません。また、調査対象はカリフォルニア州に限定されているため、大麻の法的位置づけや社会的受容度が異なる他の地域や国にそのまま当てはめることには慎重さが求められます。
まとめ
今回の研究は、思春期の若者たちが大麻をタバコや電子タバコ、アルコールよりも「害が少ない」と考えている実態を、16万人を超える大規模データで浮き彫りにしました。特に、年齢が上がるほど大麻に対する警戒心が薄れていくという傾向は、大麻が合法化・一般化していく社会において、若者向けの教育と啓発がこれまで以上に重要になることを示唆しています。
本記事は医学的な助言を目的としたものではなく、あくまで研究知見の紹介であることをご理解ください。
参考文献
Agarwal D, Wang J, Li S, Anderson CM, Zhu SH. Adolescents view cannabis as less harmful than cigarettes, nicotine vapes, and alcohol: Findings from two California school surveys. Drug Alcohol Depend. 2026. DOI: 10.1016/j.drugalcdep.2026.113155
PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42091353/
経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。
研究分野:臨床カンナビノイド医学
活動: 2017年に一般社団法人Green Zone Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。令和6年度厚生労働特別研究班(カンナビノイド医薬品と製品の薬事監視)分担研究者。
書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン)
所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員)
更新日:2026年7月21日
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