
関節の痛みに悩む患者たちは、大麻をどう見ているのか
変形性関節症をはじめとする関節疾患による痛みは、世界中で約6億人が抱える深刻な健康課題です。関節痛に苦しむ患者の多くは、鎮痛薬としてオピオイドを処方されていますが、北米ではオピオイドによる過量摂取や依存症が社会問題化しており、代替となる鎮痛手段の模索が急務となっています。そうした中、大麻の鎮痛作用に改めて注目が集まっています。
カナダの研究チームが、整形外科クリニックを受診した関節炎患者406人を対象に、大麻使用に関する意識調査を実施しました。その結果、患者たちは大麻が自分の痛みの53.6%を治療できると考えており、すでに4人に1人以上が医療目的で大麻を使用した経験があることが明らかになりました。本記事では、この調査結果の詳細を紹介します。
研究の背景:オピオイド危機と大麻への期待
関節痛の治療において、人工関節置換術などの手術後の疼痛管理は重要な課題です。術後の疼痛コントロールが不十分だと、早期の可動域訓練が妨げられるためです。整形外科領域では、米国で処方されるオピオイドの約8%を占めるとされ、オピオイド関連死の増加に一定の関与があると指摘されてきました。米国では1日90件以上のオピオイド関連死が報告され、カナダでもオピオイド関連の救急受診や入院がこの10年で50%以上増加しています。
大麻は内因性カンナビノイドシステム(ECS)を介してCB1・CB2受容体を活性化し、痛みの信号を抑制し炎症を軽減すると考えられています。慢性疼痛患者を対象としたランダム化比較試験のレビューでは、特に神経障害性疼痛においてプラセボと比較した痛みの軽減効果が報告されていますが、整形外科領域における大麻の鎮痛効果に関する頑健なデータはまだ乏しいのが現状です。カナダでは大麻が完全に合法化されており、この研究にはユニークな調査機会が生まれました。
研究方法:3つの整形外科クリニックで406人を調査
本研究は横断的調査として実施され、カナダ国内の3つの整形外科クリニックを2018年1月24日から3月7日にかけて受診した、18歳以上で英語を話す関節炎・関節痛患者を対象としました。認知機能に障害がある患者や、参加が困難なほど重症・受傷した患者は除外されています。
調査票は50項目からなり、整形外科医、麻酔科医、リハビリテーション専門家、疫学者などの専門家チームと患者の意見を反映して作成されました。項目は患者背景や受傷特性、疼痛の重症度と鎮痛薬使用状況、大麻の医療利用に関する認識、大麻使用の知覚された有効性、臨床使用における障壁などを含みます。疼痛の重症度は0(痛みなし)から100(耐えがたい痛み)までの視覚アナログスケール(VAS)で評価され、大麻の知覚された有効性についても同様の0%から100%の連続尺度で測定されました。
サンプルサイズは多変量回帰分析に基づいて算出され、有意水準0.05、効果量0.06、検出力80%、8つの予測変数という条件下で257人が必要と推定されました。データの不完全性(30%程度)を見込み、最終的に367人以上のリクルートを目標として調査が行われました。
結果:患者の4人に1人が既に大麻を医療目的で使用
最終的に406人の患者が調査に参加しました。平均年齢は58歳(範囲20〜91歳)で、女性が250人(61.6%)、男性が156人(38.4%)でした。多くの患者が大学教育を受けており(167/404人、41.3%)、年収がCAD 25,000〜75,000の層が最も多く見られました(205/383人、53.5%)。
平均疼痛スコア(VAS)は55.0±22.7でした。患者の大部分(375/404人、92.8%)が6ヶ月以上続く慢性疼痛を抱えており、84.2%(342/406人)が直近1週間以内に痛みを経験していました。また238人(58.8%)が受傷部位に対する手術を経験していました。
鎮痛薬を処方されていた患者は256/406人(63.1%)で、そのうち64.5%(165/256人)がオピオイドを処方されており、30.5%(78/256人)が直近1週間以内にオピオイドを使用していました。最も一般的なオピオイドはオキシコドン/オキシコンチンで64/256人(25.0%)、最も少なかったのはフェンタニルで2/256人(0.8%)でした。非オピオイド処方薬ではナプロキセンが最多(62/256人、24.2%)でした。市販薬の使用者は315人(78.0%)にのぼり、アセトアミノフェン(208/315人、66.0%)とイブプロフェン(158/315人、50.2%)が主流でした。
大麻使用に関しては、105/400人(26.3%)がすでに医療目的で大麻を使用したことがあると回答し、143/400人(35.8%)は娯楽目的での使用経験がありました。さらに63人(15.8%)が過去12ヶ月間に疼痛管理を目的として大麻を使用していました。
患者たちは平均して、大麻が自分の痛みの53.6%±2.6%(95%信頼区間51.1%〜56.1%)を治療できる、あるいは治療していると回答し、現在使用している鎮痛薬の50.4%±3.2%(95%信頼区間47.2%〜53.6%)を代替できると考えていました。また、医師と大麻使用について話すことへの抵抗感は低く、快適さのスコアは77.1±2.7(95%信頼区間74.4〜79.8)でした。
多変量回帰分析では、医療目的で大麻を使用したことがある人は、有意な疼痛改善を報告する可能性が高いことが示されました(オッズ比7.2、95%信頼区間1.6〜12.8、p=0.001)。またベースラインの疼痛が重症であるほど、大麻による改善を報告しやすい傾向も認められました(β=0.2/点、95%信頼区間0.1〜0.3、p=0.012)。
一方で、医師と大麻使用について実際に話し合った患者はわずか61/391人(15.6%)にとどまりました。話し合わなかった理由として最も多かったのは「大麻を治療選択肢として考えたことがなかった」というもので172/330人(52.1%)を占め、副作用への懸念が54/330人(16.4%)、依存への懸念が38/330人(11.5%)と続きました。
大麻の入手方法として最も好まれたのはプライベートディスペンサリーで26/406人(6.4%)、次いで薬局が23/406人(5.7%)でした。摂取形態については経口製剤(錠剤)が最も人気で179/406人(44.1%)、次いで食品(エディブル)が99/406人(24.4%)、局所クリームが101/406人(24.9%)と続きました。喫煙(69/406人、17.0%)や気化(46/406人、11.3%)といった吸入形態への希望は比較的少数でした。カナダにおける娯楽用大麻の合法化については、半数の患者(194/382人、50.8%)が「やや」または「強く」支持すると回答しました。
大麻が有用だと考える用途について尋ねたところ、疼痛治療については135/152人(88.8%)が有用と回答し、オピオイドの減量については128/150人(85.3%)、オピオイドの完全な代替については117/151人(77.5%)が有用と考えていました。さらにPTSD症状の治療に対しては121/151人(80.1%)、不安症状の治療に対しては119/151人(78.8%)が有用と回答しています。半数以上の患者(208/381人、54.6%)が、大麻と標準治療を比較するランダム化比較試験への参加に前向きな意向を示しました。
考察:数字が示す「大麻への期待」と「情報不足」のギャップ
この調査結果は、関節炎患者の間で大麻使用がすでに広く浸透していることを示しています。26.3%という数字は、決して少なくない割合の患者がすでに医療目的で大麻を試みていることを意味します。さらに患者たちは、大麻が自分の痛みの半分以上を軽減できる、あるいはすでに軽減していると認識しており、鎮痛薬の使用量削減にもつながると期待していることがわかります。
同じ研究チームが外傷患者や腰痛患者を対象に行った同様の調査でも一致した傾向が確認されており、慢性疼痛や術後疼痛に関する既存研究でも、大麻やカンナビノイド製品が痛みを穏やかながら測定可能な程度に軽減し、オピオイドの使用量を減らす効果(オピオイド節約効果)を持つ可能性が指摘されています。今回の患者の認識は、こうした先行研究の知見とも整合的です。
特に注目すべきは、医師と大麻使用について話し合った患者がわずか15.6%にとどまっていた点です。その最大の理由は「大麻を治療選択肢として考えたことがなかった」というものであり、副作用や依存への懸念よりも、そもそも大麻が疼痛管理の選択肢として認知されていないという情報不足が背景にあることが示唆されます。この結果は、整形外科医が日常診療の中で積極的に大麻使用について患者と対話を持つことの重要性を示していると言えるでしょう。
ただし本研究にはいくつかの限界があります。調査は自己申告のアンケートに基づいており、想起バイアスや社会的望ましさバイアスの影響を完全には排除できません。また調査はカナダ国内の3施設に限定されており、他国への一般化には注意が必要です。加えて、データ収集は2018年、つまりカナダで娯楽用大麻が合法化された時期に行われたものであり、その後の社会情勢や大麻に対する認識の変化を反映していない可能性があります。著者らも、大麻使用と疼痛改善の関連について観察された結果はあくまで相関関係であり、因果関係を証明するものではないと注意を促しています。
まとめ:エビデンスに基づく議論のために
今回の調査は、関節炎や関節痛を抱える患者の間で大麻がすでに現実的な治療選択肢として認識されつつあることを、具体的な数値とともに示しました。同時に、医療者と患者の間で大麻についての対話がまだ十分に行われていないという課題も浮き彫りになりました。
著者らは、大麻を関節炎治療における正式な選択肢として推奨する前に、より質の高いランダム化比較試験によって安全性と有効性を検証することが不可欠だと強調しています。今回の調査で半数以上の患者が臨床試験への参加意向を示していることは、こうした今後の研究を後押しする材料になるかもしれません。大麻の医療応用については、引き続き科学的根拠に基づいた冷静な議論と検証が求められています。
参考文献
Gjorgjievski M, Madden K, Tushinski D, et al. Perceptions regarding the use of cannabis in orthopaedics for treating musculoskeletal joint pain: A survey of arthritis patients. The Journal of International Medical Research. 2026. DOI: 10.1177/03000605261438343
PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42093160/
経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。
研究分野:臨床カンナビノイド医学
活動: 2017年に一般社団法人Green Zone Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。令和6年度厚生労働特別研究班(カンナビノイド医薬品と製品の薬事監視)分担研究者。
書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン)
所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員)
更新日:2026年7月20日
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