先進6カ国の医療大麻制度:まとめと考察

2026.05.12 | 海外動向 | by greenzonejapan
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先進6カ国の医療大麻制度:まとめと考察
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令和6年度厚生労働科学特別研究事業「カンナビノイド医薬品とカンナビノイド製品の薬事監視」の一環として行った『先進6カ国における未承認大麻製剤の処方制度』に関する調査報告のまとめと考察です。

※ 先進6カ国とは厚生労働省が定義するもので、アメリカ・カナダ・オーストラリア・イギリス・ドイツ・フランスです。このうち、国として医療大麻制度を運用しているのは(20253月時点で)カナダ・オーストラリア・イギリス・ドイツの4カ国でした。このブログでは、この4カ国のそれぞれについて、および国としては医療大麻制度を持たないアメリカとフランスについて、5回に分けて紹介しました。

先進6カ国の医療大麻制度 [ 1 ] カナダ
先進6カ国の医療大麻制度 [ 2 ] オーストラリア
先進6カ国の医療大麻制度 [ 3 ] イギリス
先進6カ国の医療大麻制度 [ 4 ] ドイツ
先進6カ国の医療大麻制度 [ 5 ] アメリカとフランス

研究要旨
【目的】厚生労働省の定める先進6カ国(アメリカ・カナダ・オーストラリア・イギリス・ドイツ・フランス)のうち、処方箋医薬品として認可されていない大麻製剤を医師が患者に処方することが合法である国について、その制度設計および処方の実態を調査し、日本における制度設計の際の参考とする。
【方法】市場調査会社が公表しているデータ、および各国の業界関係者に聞き取りを行った。イギリスについては実際に足を運び、関係者に話を伺った。
【結果】現在、未承認大麻製剤が合法的に処方されているのは、上述の6カ国のうち、カナダ・オーストラリア・イギリス・ドイツの4カ国である。各国の制度の詳細については本文にて詳述する。
【考察】各国で制度は異なるが、処方箋医薬品でもなく健康補助食品でもない「医療用大麻製剤」というカテゴリーが存在し、医療関係者の合法的な処方のもとに使用している患者がいるという事実は共通している。本邦においても、同様の大麻製剤の使用が認められることによって恩恵を得られる潜在的な患者は多数にのぼると考えられ、日本の医療制度や患者の実情に則した制度が制定されることが望ましい。

まとめと考察

先進6カ国のうち、現在未承認大麻製剤が合法的に処方されているのは、カナダ・オーストラリア・イギリス・ドイツの4カ国である。各国で制度は異なるが、処方箋医薬品でもなく健康補助食品でもない「医療用大麻製剤」というカテゴリーが存在し、医療関係者の合法的な処方のもとに使用している患者がいるという事実は共通している。以下、制度構築上重要な論点のいくつかについて、日本で医療用大麻運用制度を構築することを前提とした考察を加える。

1:法的枠組み・監督省庁について

• 嗜好用を含め大麻が全面的に合法であるカナダと、嗜好用大麻の個人栽培・所持・使用が合法化されたドイツでは、大麻は違法物質(麻薬)のリストから削除されている。
• 嗜好大麻が禁じられているオーストラリアとイギリスでは、麻薬を取り締まる各法律に定められた薬物のカテゴリーを変更することによって、大麻を規制薬物としたまま、医療目的での利用が可能となった。
• いずれも、日本における厚労省に該当する省庁が医療用大麻の運用を管轄している。(ただしイギリスでは、刑事的な監督を行うのは内務省。)

【考察】

日本において大麻を規制対象としている「麻薬及び向精神薬取締法」は、大麻からヘロインまでを同等の扱いとしているが、スケジュール制度の追加を含めた見直しを行うべきであろう。またその際に、大麻の医療用途についての制度設計を組み込むことも考慮すべきである。

2:利用者資格について

• 4カ国いずれも、医療用大麻を利用するためには、政府に認可された医師などの医療従事者による許可が必要である。
• 対象疾患は、イギリスでNHSを通して処方が行われる場合を除いて、特定の疾患リストがあるわけではなく、最終的には医師の判断に委ねられるが、通常の治療法が奏効しない、あるいはその他の代替治療手段がない症例であることが条件となる。

【考察】

日本でも同等の条件の下に大麻の医療目的での利用を認めることが可能である。

3/4:製品・利用手順・販売経路について

• 各国の医療制度の違いに伴い、患者が医療用大麻製剤にアクセスする具体的な手順(スキーム)や流通の経路は異なるものの、処方可能な医師、薬局などはいずれも、監督省庁からのライセンス制度で管理されている。
• 認可される製品は、厳しい品質基準をクリアしていることが義務付けられている。
• 患者による自己栽培が許されているのはカナダのみである。
• 4カ国はいずれも国民皆保険制度が存在し、イギリスとドイツでは医療用大麻製剤が特定の条件下で保険適用となるが、実際に保険制度によって償還される率は低く、特にイギリスでは合法化後これまでに数例にとどまっている。カナダとオーストラリアでは、医療用大麻製剤は公的な健康保険の対象とならず、一部例外を除きすべて私費での利用である。
• オーストラリアとドイツでは、医師はカンナビノイド含有比および剤形を処方し、患者は認可された製品のなかから処方に則した製品を選ぶ必要がある。カナダでは、処方箋に相当する「医療文書」には乾燥大麻の用量のみが記載され、乾燥大麻以外の製品を使用する場合、乾燥大麻の量に換算して購入する。イギリスでは、具体的な製品が処方されることが多い。
• カナダでは医療用大麻製剤はほぼすべて国内生産で、輸入は厳しく規制されている一方、オーストラリア、イギリス、ドイツでは流通する製品の大半を輸入に頼っている。

【考察】

4カ国はそれぞれに、自国の医療制度に組み込む形で、医薬品としては未承認の医療用大麻製剤の使用を政府の監督の下に認めており、国民皆保険制度の適用の有無にかかわらず、標準治療が奏効しない患者が医療用大麻製剤にアクセスする手段を提供している。日本においても、海外で使用実績があり、GMP基準を満たした製品などは、医師の監督の下で、自由診療の選択肢の一つとして使用を認めることが検討されるべきである。

5:利用の実態について

• オーストラリア、イギリス、ドイツではいずれも、医療用大麻を使用する患者の数は増大傾向にある。カナダでは逆に、2019年以降医療用大麻患者の登録者数は減少しているが、これは嗜好用大麻が全面解禁されたことによる影響と考えられる。
• 適応症としては、4カ国に共通して慢性疼痛、がん、神経変性疾患、精神疾患などが多い。

【考察】

4カ国に共通した適応症である慢性疼痛、がん、神経変性疾患、精神疾患は、日本でも患者数が多く、日本における医療用大麻製剤の潜在的な受益者層は広いと考えられる。現在日本では、処方医薬品として海外数十カ国で承認されているエピディオレックスの、難治性てんかんを適応症とした臨床試験が行われているが、てんかん以外にも医療用大麻製剤が奏効する疾患があることは明らかであり、エビデンスも蓄積されつつある。したがって日本でも、現行の医療制度や患者の実情に則した医療大麻制度が制定され、幅広い疾患に対して医療用大麻製剤を使えるようになることが望ましい。

6:今後の展望と課題

• 4カ国に共通する課題として、医療用大麻製剤を処方する権限のある医療従事者のうち、実際に医療用大麻製剤を処方する者は少なく、また利用する患者も、医療用大麻による潜在的な受益者層のうちのごく一部にとどまっている。
• とは言いつつ、4カ国のいずれにおいても使用者は増加傾向にあり、今後の市場の拡大が予想されている。
• 嗜好用大麻が合法化されたカナダとドイツでは、医療用大麻製剤が供給不足になったり、医療用大麻にアクセスするための制度が乱用されたりといった混乱が生じている。

【考察】

4カ国の制度はそれぞれに特徴があり、現行の医療制度や大麻草栽培の歴史を背景として、独自の制度を構築しようとしており、制度の見直しや改定も積極的に行われている。
4カ国に共通して言えることだが、医療用大麻製剤の利用者は、潜在的な受益者のうちごく一部に限られている。これは、制度が比較的新しく、いまだ試行錯誤の過程にあることが一因であるが、大きな課題として、処方する医療従事者の知識の不足や、医療用大麻が治療法の選択肢として存在することについての患者側の認識不足がある。日本において医療用大麻制度を構築する際には、処方する側とされる側の両方に対する教育・啓蒙の徹底が不可欠である。

結論

先進6カ国のうち4カ国で医療用大麻製剤が医師によって処方されているという事実は、大麻の持つ医療効果が政府によって正式に認められており、医療目的での大麻の利用が奏効している患者が存在することを如実に表している。日本でも、標準医療・代替医療を含む現行の医療制度に組み込める部分は組み込み、必要ならば新たな法的枠組みをつくるなどして、日本独自の医療大麻制度を構築することは可能であり、早急に検討されるべきである。

蛇足であるが、4カ国のうち、国内生産態勢がない(未熟である)こと、医師が特定の製品を処方できること、保険適用または自費診療という選択肢があること、患者のレジストリーが構築されていることなどから、最も参考になるのはイギリスの制度であるという個人的感想を持った。

文責:三木直子(国際基督教大学教養学部語学科卒。翻訳家。2011年に『マリファナはなぜ非合法なのか?』の翻訳を手がけて以来医療大麻に関する啓蒙活動を始め、海外の医療大麻に関する取材と情報発信を続けている。GREEN ZONE JAPAN 共同創設者、プログラム・ディレクター。)

 

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